水族館の人気者、ジンベエザメ。その優雅に泳ぐ姿は多くの人を魅了しますが、実はジンベエザメを長期飼育している水族館は、世界でもほんの一握りしかありません。
「なぜどこの水族館にもいないの?」
「お金さえあれば個人でも飼えるの?」
そんな疑問を持つ方のために、ジンベエザメの飼育がなぜこれほどまでに難しいのか、その裏にある「3つの大きな壁」について解説します。
理由1:巨大すぎる体と「泳ぎ続けないと死ぬ」生態
最大の理由は、その規格外の大きさと生態にあります。
最大12mを超える巨体
ジンベエザメは世界最大の魚類です。成長すると全長10〜12m、体重は20トンにも達します。この巨体をストレスなく泳がせるためには、とてつもなく巨大な水槽が必要です。
単に「入ればいい」というわけではありません。ジンベエザメは回遊魚であり、直進して泳ぐ習性があるため、旋回できるだけの十分な奥行きや幅がないと、壁に激突して弱ってしまいます。
止まると呼吸ができない「ラム換水」
さらに厄介なのが呼吸法です。多くのサメは海底でじっとしていてもエラを動かして呼吸できますが、ジンベエザメは「ラム換水(ラム・ベンチレーション)」といって、泳いで口から新鮮な海水を取り込み続けないと呼吸ができず、窒息してしまいます。
つまり、「24時間365日、死ぬまで泳ぎ続けられる広さ」が絶対条件なのです。
理由2:莫大な「餌代」と水質管理
2つ目の壁は、維持コストです。
1日数十キロのプランクトン
ジンベエザメは大食漢です。自然界では1日に数百キロの海水をろ過してプランクトンを食べています。水族館ではオキアミやサクラエビなどを与えますが、その量は1頭あたり1日数キロ〜数十キロに及びます。これだけでも年間の餌代は数百万円クラスになります。
排泄物による水質汚染
大量に食べるということは、大量に排泄するということです。 閉鎖された水槽内で巨大なサメが排泄を続けると、水質はあっという間に悪化します。これを防ぐには、超高性能なろ過装置と、大量の海水を入れ替えるシステムが必要です。この電気代と水道代(海水輸送費)は、天文学的な数字になります。
理由3:輸送という最大の難関
そもそも、「どうやって水族館まで運ぶのか?」という問題があります。 10m近い魚を生きたまま、海水ごと運ぶには、専用の巨大コンテナとトレーラー、そして場合によっては輸送船が必要です。
- 漁師の網にかかった個体(混獲)を傷つけずに保護する技術
- 港から水族館までのルート確保(信号機や歩道橋が邪魔になることも)
- 輸送中の水温・酸素管理
これら全てをクリアしなければならず、輸送中のストレスで弱って死んでしまうリスクも非常に高いのです。
トリビア:ジンベエザメの値段は?個人で飼える?
よく「ジンベエザメはいくらで買えるの?」と検索されますが、生体そのものに定価はありません(多くは漁師からの譲渡や保護です)。 しかし、輸送費や設備投資を含めれば、1頭を展示するまでに数億円〜数十億円のプロジェクトになります。
したがって、個人での飼育は「不可能」です。自宅に「海」を作れる資産家でない限り、実現できません。
まとめ:日本で見られるのは「奇跡」
ジンベエザメの飼育は、生物学的にも設備的にも、世界最高峰の難易度を誇ります。 そんな中、日本にはジンベエザメを複数飼育し、繁殖まで目指している水族館が複数あります。これは世界的に見ても「奇跡」に近い環境です。
水族館で悠々と泳ぐジンベエザメを見かけたら、その背景にある飼育員さんたちの並々ならぬ努力にも思いを馳せてみてください。
ジンベエザメに会える日本の水族館
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沖縄美ら海水族館(沖縄県)
世界最大級の水槽で複数のジンベエザメを飼育。繁殖を目指す世界的な研究拠点でもあります。 -
海遊館(大阪府)
太平洋を取り囲む環境を再現。巨大な水槽を中心部から螺旋状に観察できます。 -
のとじま水族館(石川県)
日本海側で唯一、ジンベエザメを展示している水族館です。(※最新の展示状況は公式サイトをご確認ください)