ビロウドザメ図鑑
「サメ肌」といえば、わさびおろしに使われるほどザラザラしているのが常識です。 しかし、このサメは違います。その名の通り、まるで高級な布地「ビロード(ベルベット)」のように、しっとりと滑らかな肌触りをしているのです。 光の届かない深海で、全身を漆黒に染めてひっそりと暮らす、お洒落な名前のサメ「ビロウドザメ」を紹介します。
基本情報
| 和名 | ビロウドザメ(天鵞絨鮫) |
|---|---|
| 英名 | Velvet Dogfish |
| 学名 | Zameus squamulosus |
| 分類 | ツノザメ目 ユメザメ科 ビロウドザメ属 |
| 体長 | 平均 50〜70cm(最大約84cm) |
| 生息域 | 大陸棚斜面や外洋の深海(水深550〜1450m、最大2000m以上) |
| 分布 | 世界中の熱帯〜温帯の深海(大西洋、インド洋、太平洋、日本近海を含む) |
| IUCNレッドリスト | データ不足(DD) / 一部地域で軽度懸念(LC) |
| 特徴 | 全身が黒または暗褐色、肌触りが滑らか、口が小さい |
形態:名前の由来は「肌触り」
なぜ「ビロード」なのか?
ビロウドザメの最大の特徴は、その皮膚の質感です。 一般的なサメの鱗(盾鱗)には鋭い突起があり、触るとザラザラしますが、ビロウドザメの鱗は非常に細かく、棘(とげ)が低いため、撫でると布のビロードのように滑らかな感触がします。 和名の「天鵞絨(びろうど)」も、英名の「Velvet(ベルベット)」も、この独特な手触りに由来しています。
闇に溶ける「漆黒」のボディ
体色は全身が一様に「濃い黒色」または「暗いこげ茶色」をしています。 水深500メートル以深の光がほとんど届かない世界では、この黒い体は完璧な迷彩服となります。 また、近縁種のユメザメなどと同様に、小さな背びれの前には目立たない小さな棘(スパイン)を持っています。
生態と動画
深海の掃除屋?
非常に深い海(水深2000m付近まで)に生息しており、詳しい生態はあまり分かっていません。 底引き網漁などで混獲される個体の胃の内容物から、深海性の小魚やイカ、エビなどを食べていると考えられています。 また、死んで海底に沈んできた生物の肉を食べる「スカベンジャー(腐肉食者)」としての役割も担っている可能性があります。
人との関わり
肝油の利用
ビロウドザメ自体を狙った漁は行われていませんが、底引き網漁などで他の魚と一緒に捕獲されることがあります。 食用には向きませんが、深海ザメ特有の「肝臓」には豊富な油(スクワレン)が含まれているため、肝油の原料として利用されることがあります。
よくある質問(FAQ)
Q: 日本の水族館で見られますか?
A: 非常に稀です。深海ザメであり、水圧の変化や光に弱いため、生きたままの展示は極めて困難です。底引き網漁が盛んな地域の水族館(沼津港深海水族館など)で、運が良ければ短期間展示されたり、標本が見られたりする可能性があります。
Q: 触ると本当に気持ちいいのですか?
A: はい、サメとは思えないほど滑らかです。ただし、完全にツルツルというわけではなく、細かい起毛素材のような独特の抵抗感があります。標本に触れる機会があれば、ぜひ「順目(頭から尾)」だけでなく「逆目」でも撫でてみてください。
Q: 人間を襲いますか?
A: いいえ、襲いません。深海に住んでいるため人間と遭遇することはなく、サイズも小さいため危険性はありません。
まとめ
ビロウドザメは、深海の過酷な環境に適応した結果、「ビロード」と呼ばれる美しい肌を手に入れたサメです。 真っ黒な体で暗闇に潜み、ひっそりと命をつないでいる彼らの存在は、深海という世界の奥深さを感じさせてくれます。
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参考文献・出典
- FishBase – Zameus squamulosus
- 仲谷一宏 (2016). 『サメ-海の王者たち-改訂版』. ブックマン社.