はじめに
海がこわいと感じる人は多いけれど、サメに出会うことはとてもまれです。世界で泳ぐ人の数にくらべると、事故はごく少ないのが現実です。だからまず知っておきたいのは、「正しい知識」と「落ち着いた行動」が自分と仲間を守るということ。このマニュアルは、小学生にもわかる言葉で、海に入る前と入ってから、もし出会ってしまったときの手順をまとめました。
サメはなぜ人をかむのか
サメは人をえものだと思ってねらっているわけではありません。波やにごりで見まちがえる、魚を追っていて近くに人がいた、さわられておどろいた、なわばりを守ろうとした、などが主な理由です。つまりサメから見ると「よく見えないものが動いた」「においがした」「近づきすぎた」がきっかけ。見まちがいをへらし、近づかない工夫をすれば、多くはさけられます。まずは全体像として、サメは人をどれくらい襲うのかも合わせて知っておくと安心です。
海に入る前の準備(チェックリスト)
- 天気と海の情報をチェック(にごり・うねり・風向き)。
- 川の水が入る場所、魚が多く集まるポイントはさける。
- 朝夕は魚の動きが活発でサメの活動も上がることがある。
- ひとりで入らない。必ず見ている人(見張り役)を決める。
- ケガや鼻血があるなら入らない。血のにおいはよせやすい。
- 釣り場や魚をさばく場所から離れた海域を選ぶ。
- その日の遊泳ルールを監視員に確認。
サメの生息についての基礎知識は、サメはどこに住んでいる?世界の海に広がるすみかも参考にしてください。
身につけるもの
きらきら光るアクセサリー、コントラストが強すぎる模様、魚に似た色分けはさけます。黒か落ち着いた色のウェアが無難。足ひれやサーフボードのひもは整えて、ぶらぶらさせない。ケガをふせぐため、うすい手袋やマリンシューズも役立ちます。笛や防水ライトがあると、合図が合わせやすくなります。
海に入ったら心がけること
むやみにばしゃばしゃしない。急に向きを変えない。水面でじたばたすると弱った魚に見えることがあります。二人以上で近くを保ち、一定の間隔でまわりを見ます。上から見るとサメは気づきにくいので、ときどき体を回して足の下も確認。魚群、海鳥が低く舞う場所、あわ立つ場所には近づかない。にごりが強くなったら、深追いせず早めに上がる決断をします。
兆候とサインを見つける
- 透明度が下がり足先が見えない。
- 海面に「V」字の航跡のような波が走る。
- 海鳥が低く旋回し続ける、または魚群が急に散る。
- 見慣れない大きな影がゆっくり横切る。
一つでも当てはまったら、すぐ静止→周囲確認→ゆっくり後退、が基本です。
サメらしい影を見たら
まず止まります。深呼吸を一回。水中で立てるならゆっくり立ち、立てないなら水平を保って静かに。相手に背中を向けず、体の向きをゆっくり変えて、サメの位置を見失わないようにします。手足を小さくまとめ、むだな動きをへらす。仲間がいるなら短い言葉で共有し、近づいて円を作ると、お互いの死角が減ります。
距離の取り方
サメが遠くを横切るだけなら、その場で静かに待ちます。近づいてくる場合は、岸やボートの方向へ、ゆっくり後ずさりするように移動。直線で速く動くのはさけ、止まる→少し下がる→止まる、のくり返しで、視線は外さない。サメの鼻先や進行方向をふさがないよう、左右の空間を残してあげると、相手は通りやすくなり、接触の可能性が下がります。
してはいけないこと
むやみに手足で追いはらおうとしない。にげようとして全力キックをしない。背中を向けてダッシュしない。さわろうとしない。フラッシュ撮影や強いライトを当て続けない。フィンやボードを投げすてない。これらはサメを刺激し、まちがいを増やします。
接近が続くときの対応
サメが何度も距離をつめて様子を見る「調べる行動」をする場合、ボードやフィン、シュノーケルを体の前にかまえ、かたい面を相手に向けます。鼻先、頭の上、目の前をふさぐ「壁」を作るイメージ。触れそうな距離になったら、道具の面で軽く押し返すだけにとどめ、強い打撃はさけます。仲間となら、互いに半歩ずつ交代で下がりながら、まとまりを保って岸へ寄ります。サメ種ごとの傾向はサメの危険度一覧を参考に。
万が一、ぶつかってきたら
まず顔、のど、腹を守る姿勢をとります。ボードがあれば盾にして体の前へ。素手の場合は肘をしめ、手で顔をおおい、ひざを少し曲げて衝撃を受けます。至近距離で離れないと判断したときは、鼻先や目の周辺を、短く、ためらわずに、道具の先やこぶしで突くように当て、距離を作ります。離れたら反撃は続けず、ふたたびゆっくり後退します。
岸への戻り方
岸やボートが見えたら、浮力を活かし、のびのびとしたキックで静かに進みます。大声を出すより、手で上へ下へ大きく振るほうが合図になります。監視員や仲間が見つけやすい姿勢を保ち、途中で立ち止まらず、一気に浅場まで下がる。浅い場所でも油断せず、最後まで周囲を確認します。
上がったあとの対応
監視員やライフガードに状況をすぐ伝えます。場所、時間、水のにごり、魚の様子、サメの大きさや色、距離、回数。これらは次の事故をふせぐための大切な情報です。小さなかすり傷でも、よく洗い、消毒し、医療機関で見せます。えさや血のにおいがついた道具は、海辺で洗わず、持ち帰ってから洗います。
子どもと一緒のとき
大人は一人が必ず見張り役になり、子どもは胸の深さより深い場所に入らない。浮き具はひもを短くし、ぶらぶらさせない。遊ぶ範囲をロープや旗で決め、そこから出ない約束をします。何か見えたら「止まる、見る、ゆっくり下がる」を合言葉に。練習しておくと、いざというときに体が動きます。
アクティビティ別ポイント
サーフィン:黎明・夕まずめは控えめに。足ひもは短く整える。
シュノーケル:手足を小さく動かし、水面でのバタ足をへらす。
SUP・カヤック:落水時はボードを盾に。再乗艇の手順を練習。
予防がいちばんの安全策
サメに出会う確率を下げる工夫を重ね、もし出会っても落ち着いて距離をとる——これがもっとも確実です。海は広く、変化します。「準備」「観察」「静かな動き」「仲間との合図」を積み重ねましょう。さらに理解を深めたい人は、サメの雑学・豆知識もどうぞ。
まとめ(五か条)
上がったら情報を伝え、道具は家で洗う)
にごり、魚群、えさのにおいがある場所はさける
ひとりで入らず、見張り役をつける
静かに動き、背中を向けて逃げない
近づかれたら道具で壁を作り、ゆっくり後退
参考文献・出典
- International Shark Attack File (ISAF), Florida Museum https://www.floridamuseum.ufl.edu/shark-attacks/
- IUCN Red List of Threatened Species https://www.iucnredlist.org/
- FishBase https://www.fishbase.se/
- NHKニュース(国内サメ事故報道) https://www3.nhk.or.jp/news/