イズハナトラザメ(Izu Catshark)図鑑
日本には多くの固有種(その地域にしかいない生き物)がいますが、中でも伊豆半島の海だけにひっそりと暮らす、美しいサメがいます。 その名は**イズハナトラザメ**。 普通のトラザメよりも模様が鮮やかで、「華(ハナ)」があることからその名がつきました。 地元では「トクベエ」という親しみやすいあだ名で呼ばれていた、知る人ぞ知る希少なサメを紹介します。
基本情報
| 和名 | イズハナトラザメ(伊豆花虎鮫) |
|---|---|
| 英名 | Izu Catshark |
| 学名 | Scyliorhinus tokubee |
| 分類 | メジロザメ目 トラザメ科 トラザメ属 |
| 体長 | 約 40〜50cm |
| 生息域 | 水深100m以深の岩礁帯(やや深海性) |
| 分布 | 日本固有種(伊豆半島東岸、相模湾西部、千葉県外房などごく一部) |
| IUCNレッドリスト | 情報不足(DD) ※生息域が狭いため注意が必要 |
| 危険度 | ★☆☆☆☆(1:全く危険はない) |
形態:伊豆に咲く「華」の模様
トラザメとの違い
非常によく似ている「トラザメ」も同じ海域に生息していますが、模様を見れば区別できます。 トラザメがぼんやりとした茶色の縞模様なのに対し、イズハナトラザメは濃い焦げ茶色(黒に見える)とクリーム色のコントラストがはっきりしており、複雑なまだら模様をしています。 この模様が華やかであることから「伊豆・花・トラザメ」と名付けられました。
学名になったあだ名「トクベエ」
学名の Scyliorhinus tokubee に注目してください。種小名の “tokubee” は、日本語の「徳兵衛(とくべえ)」です。 実は、新種として登録(1992年)されるずっと前から、伊豆の漁師さんたちの間では、このサメのことを「トクベエ」と呼んで区別していました。 その地元の愛称が、そのまま世界共通の学名として採用されたという、珍しい経緯を持っています。
生態と動画
深場の岩場で暮らす
通常のトラザメよりも少し深い場所(水深100メートルより深い岩場)を好む傾向があります。 ダイビングで見られることは稀で、主に深場の釣りや底引き網漁などで発見されます。 食性は肉食で、海底の小魚や甲殻類、イカなどを食べています。
卵生と「サメの財布」
トラザメの仲間と同様に「卵生」です。メスは「人魚の財布(Mermaid’s purse)」と呼ばれる、丈夫な殻に入った卵を産み落とします。 卵の殻にはツル(付着糸)が付いており、これを海藻やヤギ類(サンゴの仲間)に巻き付けて固定します。 赤ちゃんは卵の中で成長し、ミニチュアの姿で生まれてきます。
【動画】水族館のイズハナトラザメ
下田海中水族館(伊豆)などで飼育されているイズハナトラザメの映像です。 通常のトラザメと比べて、模様が複雑でコントラストが強いことがよく分かります。(動画参照元: yanchan721 )
人との関わり・保全
ご当地サメとしての人気
食用にはなりませんが、その美しさと「伊豆限定」というレア度から、水族館ファンやサメ好きの間では人気があります。 伊豆周辺の水族館(下田海中水族館、あわしまマリンパークなど)や、沼津港深海水族館などで展示されることが多く、地元の海の豊かさを象徴する存在となっています。
限られた生息域
世界中で「伊豆半島周辺の海」にしかいないため、もしこの海域の環境が激変すると、絶滅してしまうリスクがあります。 現在はIUCNレッドリストで「情報不足(DD)」とされていますが、生息地が狭い固有種として、慎重な調査と保全が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ「トクベエ」と呼ばれていたのですか?
A: 詳しい由来は定かではありませんが、昔の漁師さんが「徳兵衛さん」という人物に似ていたから、あるいは徳兵衛さんがよく釣ったから、などの説があります。いずれにせよ、地元で長く親しまれてきた名前です。
Q: トラザメと交尾しますか?
A: いいえ、別種であるため基本的には交配しません。水槽内で一緒に飼育されていても、それぞれの種同士で繁殖行動を行います。
Q: 飼育はできますか?
A: 水温を低めに保つ必要がありますが、丈夫なサメなので飼育自体は可能です。ただし、流通量が非常に少ないため、一般のペットショップで見かけることはまずありません。
まとめ
イズハナトラザメは、伊豆の海が生んだ芸術品のようなサメです。 美しい白黒模様と、「トクベエ」というユニークな名前の由来。 日本の海には、まだまだ私たちの知らない、地域特有の魅力的なサメたちが暮らしていることを教えてくれます。
関連
参考文献・出典
- FishBase – Scyliorhinus tokubee
- 下田海中水族館 展示解説