ミツクリザメ|Mitsukurina owstoni(Goblin Shark)
極端な顎の前突と長い“へら状の吻”で知られる深海の捕食者。世界の温帯〜亜熱帯の深場に散在し、人間との遭遇はまれ。
基本情報
- 和名
- ミツクリザメ
- 英名
- Goblin Shark
- 学名
- Mitsukurina owstoni
- 分類
- ネズミザメ目 ミツクリザメ科 ミツクリザメ属
- 体長
- 平均 3〜4 m 前後(大型個体の記録 5.4 m 以上の報告)
- 体重
- 個体差大(例:3.8 m 個体で約 210 kg/妊娠個体はさらに重い)
- 生息域
- 外洋の上部大陸斜面・海底峡谷・海山などの深場(概ね 100–1,200 m、近年は 2,000 m でも観察)
- 分布
- 世界中の温帯〜亜熱帯の深海に散発的(日本では東京湾・相模湾・駿河湾など)
- 好適水温
- 目安 3.8–13.7 ℃(平均 8.3 ℃・推定モデル)
- IUCN
- LC(低懸念)※2017 評価、2025-1 でも LC 表示
- 危険度
- ★☆☆☆☆(1:人間に対して実質無害/深海性で遭遇稀)
形態
扁平で長い“へら状の吻”と、半透明がかったピンク〜灰色の体色が特徴。体色は皮下の血管が透けるためで、死亡後は褐色〜灰色に退色する。背鰭は小さく丸い。
顎の前突能力が極端で、上下顎が一気に前方へ飛び出す。顎の最大速度は約 3.14 m/s、前突距離は多くのサメの 2.1〜9.5 倍に相当。獲物の吸い込み(ラムフィーディング)と組み合わせて捕食する。
生態・食性
底層〜中層の硬骨魚類、イカ類、甲殻類などを捕食。電気受容器(ロレンチーニ器官)が吻部に密集し、暗い深海でも獲物の微弱電位を探知して狩る。
行動
体は柔らかく鰭も小さめで、遊泳は緩慢と考えられる。主にベンソペラジック(海底近く)域で活動。長距離回遊というより、深場での点在的分布が示唆される。記録が少なく詳細は不明。
繁殖
胎生(卵食性を伴う可能性)と推定。2023 年、台湾で妊娠個体(胎仔 6)が漁獲により報告され、繁殖情報が補強された。出生サイズの推定は約 82 cm。成熟年齢は雄で約 16 歳、寿命は最大 60 年との推定もある。
人との関わり・危険性
深海性で遭遇が極めて稀。サメ咬傷統計でもほぼ関与しない。混獲(延縄・底引き)が主なリスクで商業価値は低い。IUCN は広域分布・混獲頻度の低さから LC とするが、知見の乏しさは課題。
トリビア
- 命名の由来:属名 Mitsukurina は日本の動物学者・箕作佳吉、種小名 owstoni は収集者 Alan Owston に献名。初記載は 1898 年(ジョーダン)。
- “生きた化石” 的特徴:ネズミザメ目の中でも原始的形質を保持し、独特の顎機構と長い吻は深海適応の象徴。
- 深度更新:近年の映像で 2,000 m 付近の成体遊泳が確認され、従来想定より深いレンジが示唆。
まとめ
ミツクリザメは、極端な顎前突と長い吻を持つ深海の捕食者。世界的に散在し、低温・深場の環境に適応している。人間に対しては無害だが、混獲と情報不足が保全上の懸念。深海生態の“空白”を埋める重要な研究対象でもある。
FAQ(よくある質問)
ミツクリザメはどこで見られますか?
大陸斜面や海底峡谷などの深場(100–1,200 m 以上)に生息。日本では東京湾・相模湾・駿河湾などで記録はあるが、基本は研究・漁業の偶発的記録が中心。
人を襲いますか?
いいえ。深海性で遭遇自体が稀、かつ人への攻撃性は知られていない。統計上も関与はほぼゼロと考えられる。
どれくらい大きくなりますか?
多くは 3–4 m。大型報告では 5.4 m 以上。体重は個体差が大きく、数百 kg 級の記録がある。
飼育できますか?
現実的ではない。深海性で低温・加圧環境が必要。長期飼育の公開例はなく、標本展示が中心。
保護状況は?
IUCN は LC(低懸念)。ただし混獲と知見不足が懸念され、モニタリングは必要。
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- IUCN Red List of Threatened Species
- FishBase
- FAO Fisheries & Aquaculture
- 各種学術・標本記録(繁殖・深度等の報告)