メガマウスザメ(Megamouth Shark)図鑑
1976年に初めて知られた「幻のサメ」。巨大な口でプランクトンを濾過して食べ、昼は深い海、夜は浅い層へ移動する謎の多い大型ザメです。
基本情報
| 和名 | メガマウスザメ |
|---|---|
| 英名 | Megamouth Shark |
| 学名 | Megachasma pelagios |
| 分類 | ネズミザメ目 メガマウスザメ科 メガマウスザメ属 |
| 体長 | 4〜6m級。2019年の117個体レビューではメス最大7.10m、オス最大5.39m |
| 体重 | 大型個体では1tを超える例がある(2017年に千葉県沖で確認された約5.4mのメスは約1.2t) |
| 生息域 | 外洋の表層〜中深層。記録上は水深0〜1,200m超まで利用し、昼は主に中深層、夜はより浅い表層側へ上がる日周鉛直移動を行う。 |
| 分布 | 世界の熱帯〜温帯域に広く散発的に分布。特に西部北太平洋で記録が多く、日本・台湾・フィリピンは重要な記録地域。 |
| IUCNレッドリスト | 低懸念(LC) |
| 危険度 | ★☆☆☆☆(1:人に対して実質無害/温和・濾過食) |
形態
名前の通り、体長に比して非常に大きな口を持つのが最大の特徴です。
- 口:非常に大きな口の上側には目立つ白い帯があります。2020年の研究では、この部分に発光器官は確認されず、メガマウス自身が発光するサメではないことが強く支持されました。一方、白い帯は光をよく反射します。
- 体型:頭部が大きく、体はずんぐりしています。ジンベエザメやウバザメとは異なる独特の体型で、尾びれは上葉が長い非対称形です。
- 濾過器官:鰓(えら)の内側には細かな突起が並ぶ濾過構造が発達しており、口に入った海水からオキアミやカイアシ類などの小さな餌をこし取ります。
メガマウスの口は光る? 実は「自分では発光しない」
メガマウスは長い間、「口のまわりが光ってプランクトンをおびき寄せるのではないか」と考えられてきました。 しかし2020年、口の周囲や白い帯の組織を詳しく調べた研究では、発光器官(フォトフォア)や発光細菌は確認されませんでした。 研究チームはメガマウス自身が生物発光する種ではないと結論づけています。
一方で、上顎の白い帯にある皮歯は非常に高い反射性を持っています。 そのため、周囲から届く光や発光するプランクトンの光を反射して、口元が光って見える可能性があります。
ただし、その反射光を実際に餌を誘うために使っているかどうかは、まだ野外で実証されていません。 「光る口で獲物をおびき寄せる」は面白い説ですが、現在は「発光はしない。白い帯はよく光を反射する」が科学的により正確です。
生態
食性:三大プランクトン食サメ
ジンベエザメ、ウバザメと並ぶ代表的な大型の濾過食サメです。主にオキアミなどの甲殻類、カイアシ類、クラゲ類などを食べ、小型の中層魚を利用する可能性もあります。巨大な体とは対照的に、餌はとても小さな生物が中心です。
ジンベエザメ・ウバザメとの違い
メガマウス、ジンベエザメ、ウバザメはいずれも小さな餌を濾過して食べる巨大ザメですが、分類も体型も生活のしかたも異なります。
行動:日周鉛直移動
メガマウスは昼に深い層、夜に浅い層を利用する「日周鉛直移動」を行います。2024年には台湾東方で3個体にポップアップ式衛星タグを付けた研究が発表され、12日、58日、最長244日間のデータが得られました。解析では、日中の多くを中深層(mesopelagic)で過ごし、夜は表層側(epipelagic)へ上がるパターンが確認されています。
この研究は、メガマウスが単に「ずっと深海に潜んでいるサメ」ではないことを示しています。台湾東方の海域に数か月滞在する個体がいる一方、季節的に地域外へ移動する個体も確認され、餌となる中層性生物の動きや水温に合わせて移動している可能性が考えられています。
繁殖:2023年、世界初の妊娠個体が見つかった
メガマウスの繁殖は長い間ほとんど分かっておらず、ネズミザメ目の近縁種との比較などから繁殖様式が推測されてきました。 ところが2023年11月14日、フィリピン・ルソン島アウロラ州の海岸に、7匹の胎仔を持つ成体メスが漂着しました。妊娠したメガマウスが確認されたのは世界で初めてです。
2025年には母親と7胎仔について形態とDNAを調べた研究が公表され、胎仔がメガマウスであることが確認されました。 論文では、この発見によってメガマウスがovoviviparous(卵胎生/無胎盤性胎生として扱われる繁殖様式)であることが確認されたとしています。
なぜ日本でメガマウスがよく見つかる?
メガマウスは世界中で記録されていますが、確認例には地域的な偏りがあります。 1976〜2018年の117個体をまとめた2019年の研究では、日本・台湾・フィリピンが世界の主要な記録集中地域として示されました。2021年に261件の記録を解析した研究でも、多くの個体が西部北太平洋に集中しています。
これは「メガマウスが日本にしかいない」という意味ではありません。黒潮を含む西部北太平洋の海洋環境や餌の分布に加え、定置網などによって発見されやすいことも記録数に影響していると考えられます。そのため、日本・台湾・フィリピン周辺はメガマウスの移動や生態を研究するうえで重要な海域です。
2025年には長崎県・対馬で約5mのメスを確認
2025年1月29日、長崎県対馬市沖の定置網にメガマウスが入りました。一度は沖へ放されましたが、その後港内に入り、1月31日に死亡が確認されています。
個体は体長約5m、体重約670kgのメスで、長崎大学へ運ばれて解剖・研究されました。長崎大学の山口敦子教授による当時の説明では、国内での発見は約30例、日本海側では1994年の博多湾に続く2例目で、長崎県では初の確認とされています。
胃内容物や筋肉なども研究対象となり、日本で偶然見つかる個体がメガマウスの生態解明に重要な資料となっています。
Florida Museumの確認リストでは、2026年10月の確認時点で世界273件の確実な記録が掲載されています。発見例は増えているものの、ホホジロザメやジンベエザメのように日常的に観察できるサメとは比べものにならないほど情報の少ない種類です。
人との関わり・危険性
人への攻撃性は知られておらず、FishBaseでも「Harmless(人に無害)」とされています。巨大な口を持ちますが、主な餌はプランクトンなどの小さな生物で、人間を獲物として狙うサメではありません。
外洋性で、昼は深い層を利用するため自然状態で遭遇する機会は非常に少なく、多くの記録は定置網・流し網などへの混獲や漂着によるものです。現在は日本だけでなく台湾やフィリピンでも多くの記録が蓄積しており、西部北太平洋全体がメガマウス研究の重要地域となっています。
メガマウスは水族館で見られる?剥製・標本なら見られる
メガマウスは生態自体がまだ十分に分かっておらず、現在、恒常的に生体展示している水族館は確認できません。一方で、日本には実際の個体から作られた貴重な剥製・骨格標本があります。
- 沼津港深海水族館:2025年7月にオープンした「イマーシブディープシーワールド」でもメガマウスザメの本物の剥製が展示されています。巨大な頭部と口を実物で観察できる貴重な施設です。
- 鴨川シーワールド:2017年に千葉県館山市沖で確認された全長約5.4m・約1.2tのメスから、世界初となるメガマウスの全身骨格標本を製作しました。2018年から一般公開されましたが、公式ページでは2023年5月29日から展示中止と案内されています。
※標本の展示状況は変更されることがあります。来館前に各施設の公式情報をご確認ください。
トリビア
- 発見の歴史:1976年、ハワイ沖で米海軍の調査船が使用していたパラシュート型シーアンカーに大型のサメが絡まり、科学界に知られるきっかけとなりました。1983年に新属・新種として正式記載されています。
- 「光る口」の真相:2020年の研究では自ら発光する証拠は否定されました。ただし上顎の白い帯は高い反射性を持ち、周囲の光や発光プランクトンの光を反射している可能性があります。
- 世界初の妊娠個体:2023年にフィリピンで7匹の胎仔を持つメスが確認され、2025年の研究で母親と胎仔の形態・DNAが詳しく解析されました。
- まだ300例にも満たない:Florida Museumの確認リストでは2026年10月確認時点で273件。発見例が増えた現在でも、世界的に非常に記録の少ない大型ザメです。
まとめ
メガマウスザメは、巨大な口と濾過摂食という特殊な生態を持つ、世界でも記録の少ない大型ザメです。「深海ザメ」と呼ばれることがありますが、2024年の衛星追跡では昼に中深層、夜に浅い層へ移動する日周鉛直移動が確認されました。また、口が自ら発光するという有名な説は2020年の研究で否定され、2023年には世界初の妊娠個体と7匹の胎仔が発見されるなど、近年になって生態の理解が大きく進んでいます。
日本・台湾・フィリピンを含む西部北太平洋は世界でも記録が集中する重要地域です。2025年には長崎県対馬でも約5mのメスが確認されました。それでも世界の確実な記録はまだ数百例規模で、メガマウスには移動、繁殖、寿命、個体数など多くの謎が残っています。
関連
メガマウスのぬりえ
FAQ(よくある質問)
Q1. メガマウスはどこで見られますか?
世界の熱帯〜温帯海域で散発的に記録されます。特に西部北太平洋で記録が多く、日本・台湾・フィリピンは重要な記録地域です。生体を水族館で恒常展示している例は確認できませんが、沼津港深海水族館では剥製を見ることができます。
Q2. メガマウスは人を襲いますか?
人への攻撃性は知られていません。主な餌はオキアミやカイアシ類などの小さな生物で、FishBaseでも人に無害とされています。
Q3. メガマウスはどれくらい大きくなりますか?
4〜6m級になる大型ザメです。1976〜2018年の117個体をまとめた研究では、メスは3.41〜7.10m、オスは1.77〜5.39mで、確認されたメスの最大は7.10mでした。
Q4. メガマウスの口は光るのですか?
自ら発光するサメではないと考えられています。2020年の研究では発光器官や発光細菌は確認されませんでした。一方、上顎の白い帯は光を強く反射する性質があります。
Q5. メガマウスはずっと深海にいるのですか?
いいえ。2024年の衛星追跡では、日中は主に中深層、夜はより浅い表層側へ移動する日周鉛直移動が確認されています。記録上は表層から水深1,200mを超える範囲まで利用します。
Q6. メガマウスはどうやって子どもを産みますか?
2023年にフィリピンで世界初の妊娠個体が見つかり、7匹の胎仔が確認されました。2025年の研究では、メガマウスが卵胎生/無胎盤性胎生として扱われる繁殖様式であることが確認されたと報告されています。ただし妊娠期間や胎仔への栄養供給の詳細などはまだ十分に分かっていません。
Q7. なぜ日本でメガマウスがよく見つかるのですか?
日本・台湾・フィリピンを含む西部北太平洋は世界的な記録集中地域です。黒潮周辺の海洋環境や餌の分布に加え、定置網などによって発見されやすいことも記録数に影響している可能性があります。
Q8. ジンベエザメやウバザメとは何が違いますか?
3種とも大型の濾過食サメですが、別の科に属します。メガマウスは4〜6m級で、大きな丸い頭と反射性の高い上顎の白い帯が特徴です。ジンベエザメはさらに大型で白い斑点模様を持ち、ウバザメは頭部を大きく取り囲む巨大な鰓裂が特徴です。
Q9. メガマウスの保護状況は?
IUCNレッドリストではLC(低懸念)です。FishBaseの現行表示でも2018年評価のLCが掲載されています。ただし、自然状態での個体数や繁殖生態など未解明な点が多く、定置網や流し網などによる混獲記録の継続的な把握が重要です。
参考文献・出典
- FishBase – Megachasma pelagios
- Liu et al. (2019) Distribution, body size and biology of the megamouth shark Megachasma pelagios
- Yu et al. (2021) Spatial-Temporal Distribution of Megamouth Shark inferred from over 250 individuals
- Duchatelet et al. (2020) The megamouth shark, Megachasma pelagios, is not a luminous species
- First telemetry insights into the movements and vertical habitat use of megamouth shark in the northwest Pacific
- Bueno et al. (2025) Identification and Allometric Scaling of Megamouth Shark Mother-Offspring Specimens
- Florida Museum – Confirmed Megamouth Shark Sightings
- NCC長崎文化放送(2025)対馬市で確認されたメガマウスザメ
- 沼津港深海水族館 – 展示ガイド
- 鴨川シーワールド – メガマウスザメ全身骨格標本