ツバクロザメ(Daggernose Shark)図鑑
一見するとミツクリザメやノコギリザメのようにも見えますが、これはれっきとしたメジロザメの仲間、「ツバクロザメ」です。 英名で「ダガーノーズ(短剣の鼻)」と呼ばれる通り、長く鋭く伸びた鼻先が最大の特徴。 南米の限られた海域にしか生息しておらず、現在は絶滅が最も危惧されているサメの一つです。
基本情報
| 和名 | ツバクロザメ(燕鮫) |
|---|---|
| 英名 | Daggernose Shark |
| 学名 | Isogomphodon oxyrhynchus |
| 分類 | メジロザメ目 メジロザメ科 ツバクロザメ属 |
| 体長 | 平均 1.4m(最大約1.6m) |
| 体重 | 10〜20kg程度 |
| 生息域 | 熱帯の浅瀬、河口域、マングローブ周辺(水深4〜40m) |
| 分布 | 南アメリカ北東部(トリニダード・トバゴ、ガイアナ、ブラジル北部など) |
| IUCNレッドリスト | 近絶滅種(CR) |
| 危険度 | ★☆☆☆☆(1:小型で人を襲うことはない) |
形態:極端に進化した「鼻」と「ヒレ」
短剣のような鼻(吻)
ツバクロザメの顔つきは非常にユニークです。吻(ふん)が極端に長く、平たく伸びており、上から見ると三角形の「短剣(ダガー)」のような形をしています。 この長い鼻の半分以下の長さしかない「極小の目」も特徴で、視力はほとんど役に立っていないと考えられています。
名前の由来「ツバクロ(燕)」
和名の由来となったのは、体に対して非常に大きく発達した胸びれです。 この大きなヒレを広げて泳ぐ姿が、空を飛ぶツバメ(古名:つばくろ)に見えたことから名付けられました。 また、背びれや尾びれも大きく、遊泳力は高いとされています。
生態:濁った水の住人
視界ゼロの世界で生きる
彼らが暮らすのは、アマゾン川などの大河が流れ込む、泥の混じった非常に濁った浅瀬です。 視界がほとんど効かない環境のため、目は退化して小さくなりました。その代わり、長い鼻には電気を感じ取る器官(ロレンチーニ器官)が発達しており、泥の中に潜む小魚を探し当てて捕食します。
狭い生息域と繁殖
季節によって雨季と乾季に合わせて移動しますが、長距離の回遊は行いません。 メスは一度に2〜8匹の子供を産みます(胎生)。繁殖サイクルは2年に一度と遅く、一度数が減ると回復しにくい性質を持っています。
深刻な絶滅の危機
世界で最も絶滅に近いサメの一つ
ツバクロザメは、現在近絶滅種(CR)に指定されており、野生絶滅の一歩手前という深刻な状況です。 理由は以下の2点です。
- 生息域が限定的:南米北東部の沿岸にしかいないため、逃げ場がありません。
- 漁業による混獲:生息域が、人が行う刺し網漁のエリアと完全に重なっています。長い鼻や大きなヒレが網に絡まりやすく、食用として捕獲され続けた結果、過去10年で個体数が90%以上減少した地域もあります。
まとめ
ツバクロザメは、濁った海に適応するために独自の進化を遂げた、奇妙で美しいサメです。 しかし、その進化の証である長い鼻と大きなヒレが、皮肉にも人間が仕掛けた網にかかる原因となってしまっています。 「Dusky Shark(ドタブカ)」と名前が混同されることもありますが、こちらは南米の海で静かに消えゆこうとしている、全く別の小さなサメなのです。
関連
- ミツクリザメ – 同じく長い鼻を持つ深海ザメ(テングザメとも呼ばれる)
- ドタブカ(Dusky Shark) – 名前が混同されやすいが、全く別の大型種
- 絶滅危惧種のサメたち – 世界で保護が必要なサメの現状