400年生きるサメを1000匹駆除?グリーンランドで起きたニシオンデンザメ問題

400年生きるサメを1000匹駆除?グリーンランドで起きたニシオンデンザメ問題

400年近く生きる可能性があり、脊椎動物で最も長寿な動物のひとつとして知られる ニシオンデンザメ(Greenland Shark)。 その生息地グリーンランドで2026年、 最大1,000匹を対象とした「駆除」の計画が持ち上がりました。

背景にあるのは、漁業者が受けている漁獲物や漁具への被害です。 一方、ニシオンデンザメはIUCNで「危急(VU)」と評価され、 成熟まで100年以上かかる可能性がある極端に繁殖の遅いサメでもあります。

駆除案はその後、法的根拠がないとして中止されました。 しかし、「漁業者の生活をどう守るか」と 「増えるのに何百年もかかるサメをどう保全するか」という問題は残ったままです。

👨‍💻 管理者

「400年生きるサメを駆除」と聞くだけだと、 どうしてもサメを守る側に感情が寄りやすい話です。

でも現地の漁師からすれば、釣った魚を食べられたり、 高価な漁具を壊されたりするのは普通に生活の問題です。 だからこれは「サメを殺すなんてひどい」で終わる話ではなく、 人間と大型捕食者が同じ海を使う難しさを見る記事にしたいと思います。

何が起きた?ニシオンデンザメ1000匹の駆除案

2026年2月、グリーンランド北西部の Avannaata Kommunia(アヴァンナータ自治体)は、 ニシオンデンザメの個体数を減らすための計画を決定しました。

対象 ニシオンデンザメ(Somniosus microcephalus)
目標 最大1,000匹
奨励金 1匹につき300デンマーク・クローネ
証明方法 サメの心臓を自治体へ提出
予算 30万デンマーク・クローネ
結果 法的根拠がないとして実施前に中止

当初は海底清掃やゴーストギア回収用の予算から費用を出す案もありましたが、 最終的には自治体の害獣・有害生物対策に関する予算から 30万クローネを使う計画となりました。

しかし2026年3月27日の自治体会議を経て、 自治体にはこのようなニシオンデンザメの駆除制度を実施する 法的な権限がないことが確認され、 計画は中止されました。

「1000匹が駆除された」わけではありません

2026年に1,000匹を対象とする駆除計画が決定されたことは事実ですが、 奨励金制度は実施前に取りやめられています。

なぜ漁師はニシオンデンザメを減らしたいのか?

この問題の発端は、 ニシオンデンザメが人を襲うからではありません。

問題になっているのは、 オヒョウやタラなどを狙う漁業との競合です。

北グリーンランドの漁業者によると、 ニシオンデンザメが延縄に掛かった魚を食べたり、 漁具に絡んだりすることで、 漁獲物や高価な漁具が失われることがあります。

特に道路や物流が限られる北部の集落では、 壊れた漁具を簡単に買い替えられるとは限りません。 そのため、サメによる被害は単なる「迷惑」ではなく、 漁師の収入に直接影響する問題です。

Kullorsuaqの漁業関係者からは、 ニシオンデンザメが多いため 延縄を数時間以上設置しておくことが難しいという声も出ています。

そもそもニシオンデンザメとは?

ニシオンデンザメは、 北大西洋から北極海に生息する大型の深海ザメです。

サメ図鑑では詳しい生態を ニシオンデンザメ図鑑 で解説しています。

和名 ニシオンデンザメ
英名 Greenland Shark
学名 Somniosus microcephalus
分類 ツノザメ目 オンデンザメ科 オンデンザメ属
IUCN 危急(VU)
特徴 極端に成長が遅く、非常に長寿

2016年に発表された研究では、 28匹のメスの眼の水晶体を放射性炭素年代測定し、 寿命は少なくとも272年、 最大個体は392±120歳と推定されました。

性成熟についても、 156±22歳という極端に遅い推定値が示されています。

つまり人間なら、 生まれてから1世紀以上たってようやく繁殖を始めるような生き物です。

なぜ1000匹の駆除が問題視された?

ニシオンデンザメの保全で最大の問題になるのが、 個体数が減ったときの回復の遅さです。

IUCNでは世界的に VU(Vulnerable/危急)と評価されています。

FishBaseでも世代時間は約144年と推定され、 個体数回復力は「Very Low」とされています。

また、実際の世界全体の個体数がどれくらい存在するのかについても、 十分に分かっていません。

カナダ政府の2025年評価でも、 ニシオンデンザメの個体数や増減傾向には 大きな不確実性が残っているとされています。

そのため、 「たくさんいるように見える地域だから1,000匹減らしても問題ない」 と単純には判断できません。

実は昔から「邪魔なサメ」として駆除されてきた

ニシオンデンザメと漁業者の対立は、 2026年に突然始まったものではありません。

かつては肝油を採るために、 グリーンランド、アイスランド、ノルウェーなどで 大規模に漁獲されていました。

さらに1970年代のノルウェー西部では、 ニシオンデンザメを減らすための 政府補助による駆除も行われた記録があります。

グリーンランド西部でも過去に、 サメの頭や吻などを持ち込んだ漁師へ 奨励金を支払う制度が存在しました。

つまり今回の騒動は、 長年続いてきた 「漁業にとって邪魔な大型サメをどう扱うか」 という問題が再び表面化したものでもあります。

保護団体は「駆除しても解決しない」と主張

海洋保全団体Oceans North Kalaallit Nunaatは、 駆除計画に反対しました。

同団体が指摘した理由のひとつが、 ニシオンデンザメの移動能力です。

見た目も泳ぎも非常にゆっくりしていますが、 標識調査では数か月で1,000kmを超えて移動する例も確認されています。

そのため特定地域だけで駆除しても、 周囲から別の個体が移動してくれば、 漁業被害の軽減が一時的に終わる可能性があると Oceans Northは主張しています。

また、捨てられた魚やサメの死骸そのものが、 嗅覚の鋭いニシオンデンザメを漁場へ引き寄せる可能性も指摘しています。

これは保全団体側の見解であり、 駆除による漁業被害軽減効果そのものについては、 現地で十分な科学データがそろっているわけではありません。

では、駆除以外に何ができる?

駆除計画を批判する側からは、 サメそのものを減らすのではなく、 漁具や漁の方法を変えて混獲を減らす 対策が提案されています。

  • ニシオンデンザメが多い場所・季節のデータを集める
  • 混獲しにくい延縄や漁具を試験する
  • サメを逃がす装置をトロール漁具へ導入する
  • 海底に残されたゴーストギアを回収する
  • 魚の残骸を漁場へ捨てる量を減らす
  • 音などを利用したサメ忌避装置を研究する
  • 混獲されたサメを安全に放流する方法を整備する

一方で、 こうした対策には費用や時間がかかります。

現場の漁業者にとって、 「研究結果が出るまで待ってください」で生活が成り立つとは限りません。

ここが、この問題が簡単には解決しない理由です。

漁師とサメ、どちらが悪いという話ではない

今回のニュースを 「絶滅危惧種を殺そうとする漁師」 という構図だけで見ると、 問題の半分しか見えません。

漁業者が漁獲物や漁具を失っていることも事実です。

一方、 数百年生き、100年以上かけて成熟する可能性があるニシオンデンザメは、 人間の時間感覚では考えにくいほど個体群の回復が遅い生物です。

必要なのは、 「サメを守るか、漁師を守るか」という二択ではなく、 漁業被害を減らしながら、 回復の遅いサメを必要以上に死亡させない方法を探すこと です。

グリーンランドのニシオンデンザメ問題は、 人と大型野生動物が同じ自然資源を利用するときに起きる 「共存」の難しさを示す事例と言えるでしょう。

日本のオンデンザメとは別の種類

名前がよく似ていますが、 ニシオンデンザメと オンデンザメ は別種です。

比較 ニシオンデンザメ オンデンザメ
学名 Somniosus microcephalus Somniosus pacificus
英名 Greenland Shark Pacific Sleeper Shark
主な分布 北大西洋・北極海 北太平洋・日本近海
特徴 極端な長寿で有名 日本の深海にも生息する近縁種

グリーンランドは「ヨーロッパ」なの?

グリーンランドはデンマーク王国を構成する自治領です。

ただし地理的には北アメリカ側に位置し、 現在はEUにも加盟していません。

EUとは「海外領土・地域(OCT)」として特別な関係を持っています。 そのため今回の駆除問題は、 「EUがニシオンデンザメを駆除しようとしている」 という話ではありません。

まとめ

2026年、グリーンランド北西部のAvannaata Kommuniaでは、 ニシオンデンザメ最大1,000匹を対象に、 1匹300クローネの奨励金を支払う駆除案が決定されました。

背景にあるのは、 ニシオンデンザメによる漁獲物や漁具への被害です。

しかしニシオンデンザメは、 数百年生き、 成熟まで100年以上かかる可能性のある、 極端に回復の遅いサメです。

駆除制度は自治体に法的権限がないとして実施前に中止されましたが、 漁業被害そのものが消えたわけではありません。

この問題が示しているのは、 「サメを守れば解決」「サメを減らせば解決」という単純な構図ではありません。

サメの生態を調べ、 漁師の被害を記録し、 漁具や漁法を改善しながら、 人とサメが同じ海を利用する方法を探す必要があります。

サメと人との関係は、国や地域によって大きく異なります。 ほかの国の保護・漁業・安全対策については 世界のサメと人のくらし でも紹介しています。

FAQ(よくある質問)

Q1. グリーンランドでは本当にニシオンデンザメを1000匹駆除したのですか?

いいえ。2026年に最大1,000匹を対象とする奨励金制度が決定されましたが、 自治体に実施する法的根拠がないことが分かり、制度は実施前に中止されています。

Q2. なぜニシオンデンザメを駆除しようとしたのですか?

オヒョウやタラなどを狙う漁業で、 ニシオンデンザメが釣れた魚を食べたり、 漁具に絡んだりすることで、 漁獲物や漁具に損害が出ているためです。

Q3. ニシオンデンザメは絶滅危惧種ですか?

IUCNレッドリストではVU(危急)に評価されています。 非常に成長が遅く、成熟まで100年以上かかる可能性があるため、 漁獲による死亡からの回復に長い時間がかかります。

Q4. ニシオンデンザメは本当に400年生きますか?

2016年の研究では、最大個体の年齢が392±120歳と推定されました。 年齢推定には不確実性がありますが、 少なくとも非常に長寿な脊椎動物であることは確かです。

Q5. 日本にもニシオンデンザメはいますか?

ニシオンデンザメは主に北大西洋・北極海に分布します。 日本近海には近縁種の オンデンザメ が生息しています。

参考文献・出典

  • Sermitsiaq(2026年3月3日) 「Til kamp mod grønlandshajen」
  • Sermitsiaq(2026年4月5日) 「Kommunal haj-dusør sløjfes – er ikke lovlig」
  • Oceans North Kalaallit Nunaat(2026年3月19日) 「Culling Greenland sharks won’t solve the problem」
  • Nielsen et al. (2016) Eye lens radiocarbon reveals centuries of longevity in the Greenland shark, Science 353:702–704.
  • COSEWIC (2025) Assessment and Status Report on the Greenland Shark
  • FishBase – Somniosus microcephalus

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