サメの皮膚は化石になる?7,000年前の海に何匹のサメがいたか分かる理由

サメの皮膚を覆う盾鱗(皮歯・プラコイドスケール)のイメージ

サメの体は軟骨でできているため、 恐竜の骨のような化石は残りにくい生き物です。 そのため、昔のサメを調べる研究では、長い間「歯の化石」が重要な手がかりになってきました。

ところが2026年、もっと小さなものから、数千年前の海に どれくらいのサメがいたのかまで推定する研究が発表されました。

その手がかりが、サメの皮膚を覆っている 盾鱗(dermal denticles=皮歯)です。

2026年8月13日に科学誌『Science』で発表された研究では、 パナマの太平洋側とカリブ海側のサンゴ礁に残った皮歯を分析。 その結果、人間による大規模な漁業が始まる前には、 太平洋側のサンゴ礁に、カリブ海側のおよそ20倍ものサメが存在していた と推定されました。

では、なぜ「サメの皮膚」から7,000年前のサメの数まで分かるのでしょうか。 この記事では、サメ肌の正体から、最新研究の仕組みと結果まで順番に解説します。

管理者(父)のひとこと

「7,000年前にサメが何匹いたか調べました」と聞いた時点で、 どうやって数えたんだよと思うわけです。 答えが「海底に落ちたサメ肌を数えました」なのがかなり良い。 サメ、本人がいなくなってもフケみたいなものから人口調査されている。

息子コメント

サメの歯が化石になるのは知ってたけど、 皮膚の小さいトゲまで残るのは知らなかった。 それで昔のサメの数が分かるのすごい。

先に結論: サメの「皮膚そのもの」が普通の化石として残るわけではありません。 サメ肌を作っている小さな歯のような構造 「盾鱗(皮歯)」が海底の堆積物に保存され、 その数や形を調べることで、過去のサメの量や群集の特徴を推定できます。

サメ肌がザラザラする正体は「盾鱗」

サメを頭から尾の方向になでると比較的滑らかですが、 反対方向になでるとザラザラします。

この「サメ肌」を作っているのが、 盾鱗です。 英語ではdermal denticle、つまり「皮膚の小さな歯」という意味で、 皮歯とも呼ばれます。

  • 非常に小さい: 多くは肉眼では砂粒のように見えるほど小さな構造です。
  • 歯によく似ている: 内部に象牙質を持つなど、サメの歯と共通した構造があります。
  • 体を守る: 外からの摩擦や傷から体表を保護します。
  • 泳ぎにも関係: 表面の溝や形によって水の流れを整える働きを持つものがあります。
  • 一生の間に落ちる: サメは成長しながら盾鱗を失い、新しいものを形成します。

サメの皮膚について詳しく知りたい場合は、 サメの皮膚・盾鱗で負う怪我の危険性とその対処法 も参考にしてください。

なぜ盾鱗は化石として残るの?

サメの骨格の大部分は軟骨なので、 死んだあとに分解されやすく、完全な骨格化石は残りにくいという特徴があります。

一方、歯や盾鱗は硬い組織でできているため、 条件がよければ海底の堆積物の中に長期間保存されます。

研究者によると、盾鱗はサンゴ礁の堆積物の中で 数百万年規模で保存されることもあります。

しかもサメは、一生の間に歯よりはるかに多くの盾鱗を海へ落とします。 そのため海底の砂を詳しく調べると、 過去にその場所を泳いでいたサメが残した大量の「小さな記録」が見つかります。

海底の砂が「サメのタイムカプセル」になる

海底には、砂、サンゴの破片、貝殻、プランクトンの殻などが少しずつ積もります。 そこには、サメから剥がれ落ちた盾鱗も混ざっています。

年代が分かっている堆積物の中から盾鱗を取り出し、 一定量の堆積物に何個含まれているかを調べることで、 その時代に周辺を利用していたサメの相対的な多さを推定できます。

もちろん「盾鱗が1個あるからサメが1匹いた」と数えるわけではありません。 堆積速度、年代、採取量などを統計モデルで補正し、 盾鱗の蓄積量からサメの個体群の変化を推定します。

研究チームはこの方法を、過去の海をのぞく 「タイムマシン」のようなものとして利用しています。

2026年の研究では3,497個の盾鱗を分析

2026年に『Science』で発表された研究では、 パナマ地峡を挟んだ 太平洋側とカリブ海側のサンゴ礁を比較しました。

研究地域 パナマ太平洋側・カリブ海側
古い堆積物 約7,000〜3,000年前
比較対象 過去約100年間の堆積物
調べた試料 157サンプル
見つかった盾鱗 3,497個
掲載誌 Science

研究チームが最初に驚いたのは、単純な盾鱗の数でした。

カリブ海側のボカス・デル・トロでは、 約10kgのサンゴ礁堆積物から見つかった盾鱗は約50個。

ところが太平洋側では、 最初のわずか約1kgの試料から約200個もの盾鱗が見つかりました。

もちろん研究ではこの単純な個数だけで結論を出さず、 堆積年代や採取条件などを統計的に補正しています。 その結果でも、非常に大きな地域差が残りました。

7,000年前、太平洋側には約20倍のサメがいた

分析の結果、人間による大規模な漁業が始まる以前、 パナマ湾の太平洋側のサンゴ礁では、 カリブ海側のおよそ20倍のサメが存在していた と推定されました。

驚くのは、この2つの海域が地理的には非常に近いことです。 パナマ地峡を挟んでおよそ100km程度しか離れておらず、 共通して見られるサメも多くいます。

つまり、

「昔の海には、どこでも同じくらい大量のサメがいた」わけではなかった ということです。

海の環境そのものによって、 本来維持できるサメの数には大きな違いがありました。

なぜ太平洋側には20倍もサメがいたのか?

研究チームが重要な理由として挙げているのが、 海の「生産力」の違いです。

パナマ湾の太平洋側では季節的な 湧昇(アップウェリング)が起こります。

深い海から冷たく栄養豊富な海水が表面へ上がってくることで、 プランクトンが増え、それを食べる魚が増え、 さらにその魚を食べる大型捕食者まで多く維持できます。

一方、カリブ海側は栄養塩が比較的少ない海です。 美しく透明な海になりやすい反面、 海全体が作り出せる生物量には限界があります。

つまり、

  • 栄養が多い
  • プランクトンが増える
  • 魚が増える
  • 大型魚やサメを支えられる

という食物網の違いが、 数千年前からサメの密度を大きく左右していたと考えられます。

カリブ海側のサメは、その後約75%減少

そして研究では、もう一つ重要な結果が出ています。

カリブ海側では、古代の堆積物と現代を比較すると、 盾鱗の蓄積量が約75%低下していました。

一方、今回使用された過去100年間という単位で見ると、 太平洋側の蓄積率は古代の基準値と統計的には大きく変わっていませんでした。

その結果、現在のパナマでは、 太平洋側のサンゴ礁から見つかる盾鱗は カリブ海側のおよそ100倍に達しています。

ただし、これは「太平洋側のサメには問題がない」という意味ではありません。 研究者は、パナマ太平洋側でも近年の漁獲圧が強く、 過去100年という平均では最近の減少を十分に捉えられていない可能性を指摘しています。

以前の研究では「約71%減少」と推定されていた

この研究チームは、2021年にもカリブ海側のサンゴ礁で 盾鱗を使った研究を発表しています。

その研究では、約7,000年前のサンゴ礁と現代を比較し、 サメの総量が約71%減少したと推定されました。

とくに減少が大きかったのは、 水中を活発に泳ぎ回るメジロザメ類やシュモクザメ類などでした。

一方で、比較的漁業対象になりにくい底生性のサメも減少していたため、 漁業だけではなく、 サンゴ礁環境や餌生物の変化など複数の要因が関係している可能性も指摘されています。

2026年の研究は、この手法を太平洋側にも拡大し、 「人間の影響以前から、海域によってサメの本来の密度は大きく違った」 ことを示した点が大きな進展です。

盾鱗を見ればサメの種類まで分かる?

盾鱗は、サメによって形が異なります。 高速で泳ぐサメに多いタイプ、体を保護する働きが強いタイプなど、 形からおおまかな生態を推定できます。

ただし、盾鱗1個を見れば必ず種類まで特定できるわけではありません。

同じサメでも体の場所によって盾鱗の形が異なることがあるため、 歯の化石のように 「これはホホジロザメ」 「これはシュモクザメ」 と簡単に断定することはできません。

そこで研究では、盾鱗の形をいくつかの 機能的なグループに分類し、 どんな生態を持つサメが多かったのかを調べます。

なぜ「昔のサメの数」を知る必要があるの?

サメを保護するときには、 「何匹まで増えれば回復したと言えるのか」という基準が必要です。

ところが、人類が本格的にサメを漁獲し始める前の調査データはほとんどありません。

現在もっともサメが多い海域を見つけ、 「ここくらいの数を目標にしよう」と考えても、 もともとの環境条件が違えば正しい比較になりません。

今回のパナマがまさにその例です。

太平洋側はカリブ海側より、 人間による大規模な漁業以前から約20倍もサメを支えられる海でした。

そのため、太平洋側のサメ密度をそのままカリブ海側の保全目標にすると、 本来その海が維持できる水準を大きく見誤る可能性があります。

「昔はサメだらけだった」と単純には言えない

今回の研究が面白いのは、 単に「昔はサメがたくさんいました」という話ではないことです。

むしろ、

  • 人間の影響以前から、サメの密度には大きな地域差があった
  • 海の生産力によって、維持できる大型捕食者の数が違った
  • その本来の基準を知らないと、現在の減少率や回復目標を誤る

ということを示しています。

数千年前の小さな盾鱗が、 現代のサメ保全の目標設定にまで使われる。 化石研究と生態学が直接つながる、かなり面白い研究です。

サメの化石といえば「歯」だけではない

サメの化石としてもっとも有名なのは歯です。 巨大な メガロドン も、主に巨大な歯の化石からその姿が研究されてきました。

しかし今回のような研究では、 歯よりはるかに小さい盾鱗が、 「どんなサメがいたか」だけでなく「どのくらいいたか」 を知る手がかりになります。

サメの進化と化石については、 サメの進化史|古代からメガロドンまで でも詳しく紹介しています。

まとめ:サメ肌は7,000年前の海を記録していた

サメの皮膚をザラザラにしている 盾鱗(皮歯)は、 サメの体を守ったり、泳ぎを助けたりするだけではありません。

サメから自然に剥がれ落ちた盾鱗は海底へ沈み、 条件がよければ数千年、さらに長期間保存されます。

2026年の研究では、この小さな「サメ肌の化石」を3,497個調べることで、 7,000〜3,000年前のパナマ太平洋側には、カリブ海側のおよそ20倍のサメがいた ことが明らかになりました。

さらにカリブ海側では、その後サメの量が大きく減少したことも確認されています。

歯だけではなく、体から剥がれ落ちた小さな鱗まで、 数千年後の研究者へ海の様子を伝えている。

サメ肌は、文字通り「海の歴史を記録するタイムカプセル」だったのです。

関連リンク

FAQ(よくある質問)

サメの皮膚は化石になるのですか?

皮膚そのものが残るというより、皮膚を覆っている 盾鱗(皮歯)という硬い構造が海底の堆積物に保存されます。 条件がよければ非常に長い期間残ります。

サメ肌がザラザラするのはなぜですか?

サメの皮膚が、歯のような小さな 盾鱗で覆われているためです。 盾鱗の向きに逆らって触ると、紙やすりのようなザラザラした感触になります。

盾鱗からサメの数が分かるのはなぜですか?

サメは一生の間に盾鱗を海中へ落とします。 年代が分かる一定量の堆積物に含まれる盾鱗の蓄積量を比較することで、 その時代のサメの相対的な多さを推定できます。

7,000年前には現在よりサメが多かったのですか?

パナマのカリブ海側では、古代と比べて現在のサメが大きく減少したと推定されています。 一方、今回の研究では、人間の影響以前から太平洋側とカリブ海側には大きな地域差があったことも分かりました。

太平洋側にはなぜサメが多かったのですか?

パナマ湾では季節的な湧昇によって深海から栄養豊富な水が上がり、 プランクトンや魚が豊富になります。 その高い海洋生産力によって、より多くの大型捕食者を維持できたと考えられています。

参考文献・出典

  • Dillon EM, McCauley DJ, et al. “Fossil denticles reveal how ocean productivity shapes shark baselines and recovery potential.” Science, 2026. Science掲載論文
  • UC Santa Barbara, “Two oceans, one country, 20 times the number of sharks,” August 13, 2026. UC Santa Barbara
  • Smithsonian Tropical Research Institute, “Paleoecological reconstruction of shark communities in the Panamanian Pacific over millennia using fossil dermal denticles.” Smithsonian Tropical Research Institute
  • Dillon EM, et al. “Fossil dermal denticles reveal the preexploitation baseline of a Caribbean coral reef shark community.” Proceedings of the National Academy of Sciences, 2021. PNAS / PMC
  • UC Santa Barbara, “The Scale of Shark Decline,” July 5, 2021. UC Santa Barbara
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