
サメの年齢はどうやって調べる?
「このサメは何歳?」
人間なら誕生日を調べればすぐに分かりますが、 野生のサメにはもちろん出生届もありません。 しかもサメには、木の年輪のように外から見て年齢が分かる印もありません。
これまで研究者は、主にサメの 脊椎骨に残る成長の輪 などを調べて年齢を推定してきました。
ところが2026年、サメのDNAから年齢を推定する新しい方法が実証されました。
University of Georgiaなどの研究チームが トラフザメ(Zebra Shark) を調べたところ、 DNAに付く化学的な目印 「DNAメチル化」の変化から、 サメの年齢をかなり高い精度で推定できることが分かったのです。
この仕組みは 「エピジェネティック時計(epigenetic clock)」 と呼ばれます。
サメで年齢予測モデルの有効性が示されたのは今回が初めてです。 将来的には、野生のサメを殺さずに年齢構成を調べ、 絶滅危惧種の保全に役立てられる可能性があります。
サメの年齢をDNAで当てる時代になりました。 「このトラフザメは18歳くらいですね」と血液から言われるわけです。 サメ本人は誕生日を覚えていないだろうに、人間だけが猛烈に調べている。 研究者という生き物は本当にしつこい。
DNAで何歳か分かるのすごい! ニシオンデンザメにも使えたら、 本当に400歳とか500歳なのかもっと詳しく分かるのかな?
先に結論: 2026年の研究では、既知年齢のトラフザメ51頭を使い、 DNAメチル化のわずか10か所の情報から、 中央値で約1〜2年の誤差で年齢を推定できるモデルが作られました。 ただし、現時点で実証されているのはトラフザメであり、 すべてのサメにそのまま使えるわけではありません。
そもそもサメの年齢はなぜ分かりにくい?
魚の年齢を調べるときには、 耳の中にある耳石という硬い組織の成長輪を数える方法がよく使われます。
ところがサメやエイは軟骨魚類で、 一般的な硬骨魚類のような年齢判定に使える耳石を持っていません。
そこでサメでは、 脊椎骨などに形成される成長帯を利用して年齢を推定する方法が使われてきました。
木の年輪と少し似ていて、 成長によって形成される明暗の帯を数え、 何歳くらいなのかを推定します。
- 脊椎骨: サメの年齢研究で広く使われてきた方法。
- 棘などの硬組織: 種類によっては背びれの棘などを利用する場合もあります。
- 体長: 成長曲線と比較して、おおよその年齢を推定する方法があります。
- 標識再捕: 一度捕獲して標識を付け、再捕獲までの成長から推定する研究もあります。
従来の方法には問題もある
脊椎骨を使った方法には大きな弱点があります。
脊椎骨を詳しく調べるためには、 個体を死亡させたあとに標本を採取する必要が生じる場合がある からです。
絶滅が心配されているサメの年齢を調べたいのに、 年齢を調べるためにサメを殺す。 保全研究としては、なかなか困った問題です。
さらに、成長輪が必ず1年に1本できるとは限らない種もあり、 年齢を過小評価・過大評価してしまう可能性があります。
ポイント: サメの年齢推定には「どの方法が一番正確か」が種類によって異なります。 そのため、脊椎骨、成長速度、放射性炭素などを組み合わせて検証する研究も行われています。
2026年、DNAからサメの年齢を推定することに成功
2026年に科学誌 Molecular Ecology に掲載された研究では、 トラフザメ のDNAを使った新しい年齢推定方法が検証されました。
研究チームにはUniversity of Georgia、 Georgia Aquariumなど、複数の大学・水族館・研究機関が参加しています。
| 研究対象 | トラフザメ(Zebra Shark) |
|---|---|
| 既知年齢の個体 | 飼育下で生まれた51頭 |
| 野生由来個体 | 19頭 |
| 試料 | 全血または赤血球 |
| 測定対象 | DNAメチル化 |
| 最少マーカー | 10か所のシトシン |
| 既知年齢での中央値誤差 | 約1.03〜1.99年 |
| 掲載誌 | Molecular Ecology |
エピジェネティック時計とは?
「DNAから年齢が分かる」と聞くと、 年を取るたびにDNAの文字そのものが書き換わっていくように感じるかもしれません。
そうではありません。
エピジェネティック時計が調べるのは、 DNAの配列そのものではなく、 DNAに付く化学的な目印です。
代表的なのが DNAメチル化です。
DNAを構成する塩基のひとつ「シトシン」に メチル基という小さな化学物質が付くことがあります。
生き物が年を取るにつれて、 DNAのある場所ではメチル化が増え、 別の場所では減っていくなど、 一定のパターンが現れます。
そのパターンを大量の「年齢が分かっている個体」で学習させることで、 未知の個体の年齢を推定します。
つまり: DNAそのものを「年輪」として読むのではなく、 DNAの表面に付いた化学的な変化を年齢の時計として利用する のがエピジェネティック時計です。
わずか10か所のDNA情報で年齢を推定
今回の研究で特に面白いのが、 年齢推定のために必ずしもDNA全体を詳しく調べる必要がなかったことです。
研究チームは、 年齢との関連が強いDNAメチル化部位を選び出しました。
その結果、 わずか10か所のシトシンのメチル化状態を使ったモデルでも、 年齢をかなり正確に推定できました。
既知年齢の51頭では、 モデルによって中央値の絶対誤差は 1.03〜1.99年でした。
トラフザメの寿命が数十年規模であることを考えると、 かなり小さな誤差です。
ただし、高齢のサメでは誤差が大きくなった
新しい方法にも限界があります。
研究では、若いトラフザメほど年齢を高い精度で予測でき、 高齢個体になるにつれて誤差が増える傾向がありました。
ある検証では、 20歳未満の個体の中央値誤差は約0.72年だった一方、 20歳を超える個体では約3.32年となりました。
DNAメチル化の変化は若い成長期に大きく、 成体になると変化速度が遅くなる傾向も確認されています。
野生から来たトラフザメでも試してみた
研究チームはさらに、 野生で生まれ、その後水族館へ来た 19頭のトラフザメにもモデルを適用しました。
しかし、この19頭には重大な問題があります。 本当の誕生日が分かりません。
そこで研究チームは、 水族館へ搬入された時期や、 捕獲時に記録された体長などから 「少なくとも何歳以上か」という最低年齢を推定しました。
体長情報があった個体では、 DNA時計による推定年齢と、 体長から補正した最低年齢との差は中央値で 約3.34年でした。
体長データがない個体についても、 水族館への搬入期間を最低年齢として比較すると、 おおむね数年程度の差になりました。
注意: 野生由来の個体は本当の出生年が分からないため、 「実年齢を3〜4年の誤差で当てた」とは断定できません。 あくまで推定された最低年齢との比較です。
なぜ血液から年齢が分かることが重要なの?
この研究の大きな意味は、 単に「サメの年齢当てクイズができるようになった」ことではありません。
生きたサメから採取した血液を使って、年齢を調べられる可能性が出てきた ことです。
従来の脊椎骨による方法では、 個体を死亡させなければ詳しく調べられない場合があります。
DNAメチル化なら、 捕獲したサメから少量の血液を採取して海へ戻すという、 非致死的な調査へ発展する可能性があります。
絶滅が心配されているサメほど、 これは大きな意味を持ちます。
サメの年齢構成が分かると何が分かる?
生き物の個体数を調べるとき、 単純に「何匹いるか」だけでは十分ではありません。
何歳の個体がいるのかも非常に重要です。
| 個体群の状態 | 考えられること |
|---|---|
| 若いサメが多い | 新しい世代が加入している可能性 |
| 成体がバランスよくいる | 繁殖可能な個体が維持されている可能性 |
| 高齢個体ばかり | 若い世代が増えていない可能性 |
| 大型・高齢個体が消える | 漁業などの影響を受けている可能性 |
例えば個体数が同じ100頭でも、 若いサメから成熟個体までそろっている100頭と、 高齢個体しか残っていない100頭では意味が違います。
そのため、年齢構成は 個体群が回復しているのか、衰退しているのか を判断する重要な情報になります。
今回使われたトラフザメとは?
今回の研究対象になったのは トラフザメ です。
英名はZebra Shark。
「トラなのにシマウマ?」と思いますが、 幼魚には白黒の縞模様があり、 成長するとヒョウのような斑点模様へ変化します。
比較的おとなしく、 世界各地の水族館で飼育・繁殖されています。
今回の研究では、 水族館で生まれた正確な誕生日が分かる個体 が51頭もいたことが非常に重要でした。
DNA時計を作るには、 まず「本当の年齢が分かる個体」を使って時計を合わせる必要があるからです。
すべてのサメの年齢がDNAで分かるようになった?
まだそこまでは分かっていません。
今回の年齢予測モデルは、 トラフザメを使って作られたものです。
ホホジロザメ、ジンベエザメ、シュモクザメ、 ニシオンデンザメなどにそのまま同じ10か所を使えば 年齢が分かる、と確認されたわけではありません。
種類ごとに寿命や成長速度、 DNAメチル化のパターンが異なる可能性があります。
今後、さまざまなサメでデータが集まれば、 複数種に使える時計や、 種類ごとの高精度なエピジェネティック時計が作られる可能性があります。
世界最長寿のニシオンデンザメはどうやって年齢を調べた?
サメの年齢研究で有名なのが、 ニシオンデンザメ です。
ニシオンデンザメは非常にゆっくり成長するため、 通常の成長輪による方法では年齢を調べることが困難でした。
そこで2016年の研究では、 目の水晶体の中心部に含まれる炭素を放射性炭素年代測定する という方法が使われました。
28頭のメスを調べた結果、 ニシオンデンザメの寿命は 少なくとも272年に達する可能性が示されました。
最大の個体は体長502cmで、 推定年齢は 392歳 ± 120年。
中央値だけを見ると約400歳ですが、 誤差の範囲が非常に大きいことにも注意が必要です。
「ニシオンデンザメは400歳」と断定するより、 「約400歳と推定された大型個体がおり、少なくとも270年以上生きる可能性が示されている」 と理解する方が正確です。
サメの年齢を調べる方法を比較
| 方法 | 仕組み | メリット | 課題 |
|---|---|---|---|
| 脊椎骨 | 成長帯を数える | 多くのサメで利用されてきた | 標本採取・年輪形成の検証が必要 |
| 体長・成長曲線 | 大きさから年齢を推定 | 個体を殺さずに調べられる | 個体差が大きい |
| 標識再捕 | 再捕獲時の成長量を調べる | 実際の成長速度が分かる | 再捕獲できるとは限らない |
| 放射性炭素 | 組織中の炭素年代を調べる | 超長寿種にも使える | 特殊な試料と分析が必要 |
| エピジェネティック時計 | DNAメチル化から年齢を推定 | 血液から非致死的に調査できる可能性 | 種ごとの検証がまだ必要 |
「DNA年齢」と「寿命」は別の話
エピジェネティック時計で推定するのは、 基本的には その個体が何年生きてきたかという暦年齢です。
「あと何年生きるのか」を予言する時計ではありません。
また、 「DNA年齢が20歳だから寿命は30歳」 と単純に判断できるわけでもありません。
一方、研究者は今後、 ストレス、病気、環境変化などによって DNAの老化パターンがどう変化するかも研究できる可能性があるとしています。
つまり、単なる年齢測定だけでなく、 サメがどのように老化するのか を調べる道具にもなるかもしれません。
サメ研究は「殺して調べる」から変わりつつある
サメ研究では近年、 生きた個体をできるだけ傷つけずに調べる方法が増えています。
- 衛星タグ: どこを泳いでいるか追跡する。
- ドローン: 上空から個体数や行動を観察する。
- 水中カメラ: 捕獲せずに種類や行動を記録する。
- 環境DNA(eDNA): 海水に残ったDNAからサメの存在を調べる。
- DNAバーコーディング: DNAから種類を判定する。
- 盾鱗(皮歯): 海底に残った小さな鱗から過去のサメ群集を調べる。
- エピジェネティック時計: DNAメチル化から年齢を推定する。
「捕まえて解剖しなければ分からない」から、 海水、写真、皮膚、血液、DNAから調べる方向へ、 サメ研究そのものが変わりつつあります。
まとめ:サメの年齢をDNAで調べる時代へ
サメの年齢を正確に知ることは、 意外なほど難しい研究課題です。
従来は脊椎骨の成長帯などが使われてきましたが、 個体を死亡させなければ調べにくい場合や、 種類によって成長帯の読み方が難しいという問題がありました。
2026年の研究では、 トラフザメ 51頭のDNAメチル化を分析し、 わずか10か所の情報から中央値約1〜2年の誤差で年齢を推定 できることが示されました。
今後この方法が他のサメにも応用できれば、 野生個体を殺さずに 「若いサメが増えているのか」 「高齢個体しか残っていないのか」 といった個体群の状態を調べられる可能性があります。
サメの歯、脊椎骨、目の水晶体。 そして今度はDNA。
サメが何歳なのかを調べる方法そのものも、進化しているのです。
関連リンク
FAQ(よくある質問)
サメの年齢はどうやって調べるのですか?
従来は脊椎骨に形成される成長帯を数える方法などが使われてきました。 種類によっては体長、標識再捕、放射性炭素年代測定なども利用されます。 2026年にはDNAメチル化を使ったエピジェネティック時計がトラフザメで実証されました。
DNAを調べればサメの年齢が分かるのですか?
DNA配列そのものではなく、加齢に伴って変化するDNAメチル化のパターンを利用します。 トラフザメでは、わずか10か所のメチル化情報から高い精度で年齢を推定できることが示されました。
エピジェネティック時計の誤差はどれくらいですか?
既知年齢のトラフザメ51頭を使った研究では、 モデルによって中央値の絶対誤差は約1.03〜1.99年でした。 ただし、高齢個体では誤差が大きくなる傾向がありました。
すべてのサメにDNA年齢測定を使えますか?
現時点ではできません。 今回実証されたモデルはトラフザメを対象にしたものです。 他のサメで利用するには、種類ごとのデータ収集や検証が必要です。
ニシオンデンザメは本当に400歳なのですか?
2016年の放射性炭素年代測定では、 最大の個体が392歳±120年と推定されました。 また、この研究からニシオンデンザメは少なくとも272年生きる可能性が示されています。 そのため「必ず400歳」と断定するより、 400年級の長寿個体が存在する可能性があると理解するのが正確です。
参考文献・出典
- University of Georgia, “Shark DNA could hold answers to how we age,” August 21, 2026. University of Georgia
- Bock SL, Lyons K, Yang L, et al. “Genome-Wide DNA Methylation Patterns Predict Age in the Zebra Shark (Stegostoma tigrinum) and Provide Insight Into the Evolution of Vertebrate Aging.” Molecular Ecology, 2026. Molecular Ecology
- PubMed, “Genome-Wide DNA Methylation Patterns Predict Age in the Zebra Shark.” PubMed
- NOAA Fisheries, “Age and Growth.” NOAA Fisheries
- Nielsen J, Hedeholm RB, Heinemeier J, et al. “Eye lens radiocarbon reveals centuries of longevity in the Greenland shark (Somniosus microcephalus).” Science, 2016. PubMed