エビスザメ(Broadnose Sevengill Shark)

現生のサメ

エビスザメ(Broadnose Sevengill Shark)図鑑

多くのサメのエラは5対ですが、このサメは「7対」のエラを持つことから、英名で「セブンギル・シャーク」と呼ばれます。 恐竜よりも古い時代の特徴を残す「生きた化石」でありながら、浅い海で集団狩り(パックハンティング)を行うなど、高度な社会性も合わせ持つ興味深いサメです。

基本情報

和名 エビスザメ(恵比須鮫)
英名 Broadnose Sevengill Shark
学名 Notorynchus cepedianus
分類 カグラザメ目 カグラザメ科 エビスザメ属
体長 平均 2.0〜2.5m(最大約3.0m)
体重 最大 100kg以上
生息域 沿岸の浅瀬、湾内、ケルプの森(水深0〜570m)
分布 世界中の温帯海域(日本、カリフォルニア、南アフリカ、ニュージーランドなど)
IUCNレッドリスト 危急(VU)
危険度 ★★★☆☆(3:潜在的に危険。咬傷事故例あり)

形態:7つのエラと原始的な背びれ

エビスザメは、現代の進化したサメ(メジロザメなど)とは異なる、非常に原始的な特徴を色濃く残しています。

最大の特徴「7対の鰓孔(えらあな)」

一般的なサメのエラ穴は5つですが、エビスザメは片側に7つ(合計14個)のエラ穴を持っています。 エラの数が多いのはジュラ紀(約1億5000万年前)のサメの特徴であり、太古の姿をそのまま受け継いでいる証拠です。

背びれの位置と体色

  • 背びれが1つ:多くのサメには背びれが2つありますが、エビスザメは体のかなり後ろの方に1つだけ小さな背びれがあります。
  • 丸い鼻先:英名の「Broadnose(幅広の鼻)」の通り、頭部は平たく、鼻先は丸みを帯びています。
  • 黒い斑点:背中側は銀灰色〜茶褐色で、全身に細かい黒い斑点(スペックル)が無数に散らばっています。これは濁った海や岩場でカモフラージュになります。

独特な「クシ」のような歯

エビスザメの歯は、上あごと下あごで役割が完全に分かれています。

  • 上の歯:細長く尖っており、獲物を逃さないように突き刺す「フォーク」の役割。
  • 下の歯:平べったく、1つの歯に複数の突起(ギザギザ)がついた「クシ(櫛)」のような形をしています。これを左右に振ることで、獲物の肉を切り裂く「ナイフ」の役割を果たします。

生態:浅い海を支配するハンター

生息環境

カグラザメなどの近縁種は深海に住んでいますが、エビスザメは沿岸の浅い海を好みます。 特に大きな湾内や、隠れ場所の多い「ケルプの森(巨大海藻の森)」によく生息しています。夏場には水深1m程度の極浅い場所まで入ってくることもあります。

驚きの「パックハンティング」

エビスザメの最も注目すべき生態は、サメには珍しく集団で狩り(パックハンティング)を行うことです。 自分よりも体の大きなアザラシや、俊敏なイルカを襲う際、複数匹で包囲して逃げ場をなくし、交互に攻撃を仕掛ける様子が観察されています。 この社会的な行動により、沿岸生態系の頂点捕食者として君臨しています。

食性

非常に貪欲で、何でも食べます。 魚類、エイ(アカエイなどの毒針も気にせず食べる)、他のサメ(ホシザメやドチザメ)、海生哺乳類、動物の死骸などを捕食します。

繁殖

胎生(卵胎生)。メスの胎内で卵が孵化し、ある程度育ってから産まれます。 一度になんと80匹以上もの仔サメを産むことがあり、これはサメ類の中でもトップクラスの多産です。

人との関わり・危険性

潜在的な危険性

普段はゆっくり泳いでいますが、スイッチが入ると爆発的なスピードを出します。 大型で好奇心が強く、浅瀬にいるため、海外(ニュージーランドやカリフォルニアなど)ではダイバーやサーファーへの咬傷事故が報告されています。 挑発したり餌付けをしようとしたりしない限り襲ってくることは稀ですが、十分な注意が必要です。

水族館での展示

海外の水族館(特にアメリカ西海岸や南アフリカなど)では比較的よく展示されていますが、日本の水族館で見られる機会は少ないです。 過去には**アクアマリンふくしま(福島県)**で、北海道で捕獲された個体が展示されて話題になりましたが、2024年7月に展示を終了しています。

2021年の標津サーモン科学館でのエビスザメ展示の様子 北海道の標津サーモン科学館で展示されていた際のエビスザメの様子です。ゆったりと泳ぐ姿や、特徴的な7対のエラ、そして「えびす顔」と呼ばれる口元の様子がよく分かります。

トリビア

  • 名前の由来:和名「エビスザメ(恵比須鮫)」の由来は、七福神の恵比寿様のように、ふっくらとした体型や穏やかな(普段の)顔つきから来ていると言われています(諸説あり)。
  • 長寿の可能性:成長は遅く、寿命は50年近くになるのではないかと考えられています。

まとめ

エビスザメは、恐竜時代の記憶を宿した「7つのエラ」を持つ特別なサメです。 浅い海で群れを作り、知能的な狩りを行う彼らは、単なる「古いサメ」ではなく、環境に完璧に適応した成功者と言えるでしょう。 水族館や海で見かける機会は少ないですが、そのユニークな生態は多くのサメファンを魅了しています。

関連

  • カグラザメ – 同じカグラザメ目で、エラが6つの巨大深海ザメ
  • ラブカ – エラが6つある、フリルのようなエラを持つ深海ザメ
  • ドチザメ – エビスザメと同じく沿岸に生息するが、よくエビスザメに捕食される

FAQ(よくある質問)

Q. エビスザメはどこで見られますか?

日本では非常に珍しく、常設で見られる水族館はほとんどありません。北海道などで定置網にかかった個体が稀に短期展示されることがあります。

Q. カグラザメとの違いは何ですか?

一番の違いはエラの数です(エビスザメは7対、カグラザメは6対)。また、エビスザメは浅い海にいて体に黒い斑点がありますが、カグラザメは深海性で斑点はありません。

Q. 人を襲いますか?

積極的ではありませんが、事故例はあります。特に濁った水中や、餌の匂いがする場合、彼らのテリトリーで挑発した場合は危険です。

参考文献・出典

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