ドタブカ(Dusky Shark)

現生のサメ

ドタブカ(Dusky Shark)図鑑

世界中の海を回遊する、メジロザメ属の中でも最大級のサメです。 釣り人や漁師の間では、その立派な胸びれから「ツバクロ(=ツバメ)」という別名で呼ばれることが一般的です。 しかし、図鑑上の正式な名前(標準和名)はあくまで「ドタブカ」。 「名前は地味だが、実物は巨大でカッコいい」という、実力派のサメの生態に迫ります。

基本情報

和名 ドタブカ(土太鱶)
別名(通称) ツバクロ、本ツバクロ、モウカ(地域による)
英名 Dusky Shark
学名 Carcharhinus obscurus
分類 メジロザメ目 メジロザメ科 メジロザメ属
体長 平均 3.0m(最大 4.0〜4.2m)
体重 最大 347kg
生息域 沿岸から沖合、大陸棚周辺(水深0〜400m)
分布 全世界の温帯〜熱帯海域(日本近海を含む)
IUCNレッドリスト 絶滅危惧(EN)
危険度 ★★★☆☆(3:大型で力が強く、潜在的に危険)

「ツバクロ」なのか「ドタブカ」なのか

このサメを調べる際、最も混乱するのが名前の問題です。以下の3点を押さえておくとスッキリします。

名前の整理

  • 標準和名「ドタブカ」: 本種(Carcharhinus obscurus)の正式名称です。由来は体が太くてどっしりしている(土太)ことから来ていると言われます。
  • 市場名「ツバクロ」: 漁師や市場関係者が使う「あだ名」です。胸びれがツバメの翼のように大きいためこう呼ばれます。市場で「ツバクロ」と言えば、ほぼこのドタブカ(またはヤジブカ)を指します。
  • 標準和名「ツバクロザメ」: これは南米に住む、鼻が剣のように尖った全く別のサメ(Isogomphodon oxyrhynchus)です。ドタブカとは赤の他人です。

形態:メジロザメ属の王道スタイル

見分ける決定打「背びれの隆起」

ドタブカは、クロトガリザメなどの他のメジロザメ類と非常によく似ていますが、背中を見れば区別がつきます。 第一背びれと第二背びれの間の背中に、「隆起線(りゅうきせん)」と呼ばれる皮膚の盛り上がりがあります。 背中を触ると、この盛り上がりを確認することができます。

ツバメのような胸びれ

「ツバクロ」の通称通り、体に対して胸びれが非常に大きく、鎌(かま)のようにカーブを描いています。 この大きなヒレを翼のように使い、効率よく長距離を泳ぎ続けます。

英名「Dusky(薄暗い)」の理由

体色は背側が灰色からブロンズ色がかった灰色で、これといった模様がありません。 英名の「Dusky(薄暗い、ぼんやりした)」や学名の「obscurus(不明瞭な)」は、この特徴のない地味な体色に由来しています。

生態:スローライフな大型サメ

地球規模の大回遊

季節に合わせて、夏は涼しい極方向へ、冬は暖かい赤道方向へと、数千キロもの距離を移動します。 日本近海でも、黒潮や対馬海流などの暖流に乗って回遊してくる個体が見られます。

成長が極めて遅い

ドタブカの最大の特徴であり弱点は、その成長スピードの遅さです。
生まれたときは約1メートルですが、大人(性成熟)になるまでになんと約20年もかかります。 さらに、妊娠期間は16ヶ月〜22ヶ月とサメの中でも最長クラス。出産も2〜3年に一度しか行いません。 この「なかなか増えない」性質が、乱獲によるダメージを深刻にしています。

人との関わり

フカヒレと絶滅危惧

繊維が太くて長いドタブカの胸びれは、最高級のフカヒレ「金山翅(キンザン)」などの原料として高値で取引されてきました。 延縄漁などで大量に捕獲されましたが、前述の通り回復力が低いため、個体数が激減。 現在はIUCNレッドリストで絶滅危惧種(EN)に指定され、国際的な取引規制の対象となっています。

危険性について

体長4メートル、体重300キロを超える巨体と強力なアゴを持つため、人間にとって潜在的な脅威です。 国際的なサメ襲撃ファイル(ISAF)にも事故例が記録されています。 ただし、基本的には沖合を回遊しているため、海水浴客が遭遇することは稀です。

まとめ

ドタブカは、地味な名前と見た目に反して、海の中では圧倒的な存在感を放つ大型のサメです。 市場で「ツバクロ」と呼ばれ親しまれていますが、その裏ではフカヒレ目的の漁獲や環境変化により、静かに、しかし確実に数を減らしています。 もし魚市場で立派な「ツバクロ」のヒレを見かけたら、それが20年以上かけて海を旅してきたドタブカの証であることを思い出してください。

関連

  • ヤジブカ – 同じく背中に隆起があり、ドタブカとそっくりなサメ
  • ヨシキリザメ – 同じく長い胸びれを持ち、フカヒレの材料になる
  • ツバクロザメ – 名前が被っているが、南米の別のサメ

参考文献・出典

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