世界のサメと人のくらし|日本編
水族館では、泳ぐ姿を見て楽しむ。食卓では、料理や練り物として食べる。日本では、サメと人の暮らしがいろいろな場所でつながっています。
広島県北部の「ワニ料理」、三重県の「はんぺい」、宮城県気仙沼のサメ加工。サメは、地域の食文化や仕事を支えてきた魚でもあります。
一方で、日本にはサメ類を保護・管理するための行動計画もあります。食べること、調べること、将来に残すことを一緒に見て、日本のサメとの付き合い方を考えてみましょう。
この記事でわかること
- 広島でサメを「ワニ」と呼んで食べる文化
- サメと、はんぺん・ふかひれの関係
- 水族館の研究と、漁業の保護・管理の取り組み
広島の「ワニ料理」は、サメの料理
「ワニの刺身」と聞くと、は虫類のワニを想像するかもしれません。でも、広島県北部の三次市や庄原市などに伝わるワニ料理で使われるのは、サメです。
農林水産省の「うちの郷土料理」では、この地域にサメを「ワニ」と呼ぶ言葉があると紹介されています。[1]
海から離れた地域に、なぜサメ料理がある?
今のように交通が発達していなかった時代、山間地域では新鮮な海の魚を手に入れることが簡単ではありませんでした。
農林水産省の解説によると、日本海側から運ばれたサメは、こうした地域で貴重な海の幸として重宝されました。秋祭りや正月、祝いの席でも食べられてきました。[1]
サメとの関係は、海辺だけで生まれるわけではありません。魚を運ぶ道や、人が集まる行事をたどると、山間地域と海のつながりも見えてきます。
名前の違いも、地域を知る手がかり
「サメ」と聞くと怖い魚を思い浮かべても、「ワニ料理」は地元の祝いの食事として親しまれてきました。同じ魚でも、暮らしの中での見え方は変わります。
サメは、はんぺんなどの練り物にも使われる
サメを丸ごとの姿で見る機会は少なくても、加工された食品を通して関わっている場合があります。
三重県伊勢市や津市に伝わる「伊勢はんぺい」「津はんぺい」は、魚のすり身を使った伝統的な練り物です。農林水産省は、その原料となる魚の例にサメを挙げています。[2]
ただし、原料にはグチ、イトヨリ、エソ、タラなどもあります。はんぺんには必ずサメが入っている、という意味ではありません。
料理の見た目からは、もとの魚がわからないこともあります。身近な食品の原材料や、作り手の説明を調べることも、海の生き物を知る入口になります。
気仙沼では、サメが地域の加工文化とつながる
宮城県気仙沼は、サメの水揚げや加工と深い関係がある地域です。農林水産省の「にっぽん伝統食図鑑」では、ふかひれの主な伝承地域として三陸・気仙沼が紹介されています。[3]
ふかひれは、サメのヒレを加工した食品です。一方、気仙沼ではヒレだけでなく、サメの身をすり身にして、ちくわなどに利用してきた歴史もあります。[3]
魚を捕る人、港で扱う人、加工する人、料理を提供する人。サメを食材として利用することは、地域のさまざまな仕事につながっています。
「無駄なく使う」と「捕りすぎない」は別の課題
捕った魚を有効に使うことは大切です。ただし、無駄なく使えば、どれだけ捕ってもよいわけではありません。海にいるサメの状態を調べることも必要です。
日本には、サメ類の保護・管理の行動計画がある
日本のサメとの関係は、食文化だけでは説明できません。水産庁は2001年に「サメ類の保護・管理のための日本の国内行動計画」を定めています。ここで参照した資料は、2023年12月に一部改正されたものです。[4]
計画は、サメを水産資源として利用することと、海の生態系で重要な役割を持つ生き物として捉えることの両方を示しています。
そのうえで、種類や個体群ごとの資源評価に基づいて、捕獲を適切に管理する考え方を掲げています。サメを一括りにせず、どの種類が、どの海に、どのような状態でいるかを見る必要があるのです。[4]
目的の魚と一緒に捕まる「混獲」も調べる
漁業では、サメを狙って捕る場合だけでなく、別の魚を捕るときにサメが一緒にかかる場合もあります。こうした捕獲を「混獲」と呼びます。
国内行動計画は、サメを対象とする漁業と、サメの混獲が多い漁業を対象にしています。水揚げ量や漁獲の記録、調査船などのデータを集めることも示されています。[4]
売られた量だけを見るのではなく、漁業がサメにどのような影響を与えているかを調べることが大切です。
海を移動するサメには、国をまたいだ管理が必要
外洋性のサメなどは、広い海を移動し、日本の海だけにとどまるとは限りません。
水産研究・教育機構は、国際漁業資源の調査対象に外洋性サメ類を含めています。また、広く分布・回遊する資源の管理には、関係国の協力が重要だと説明しています。[5]
日本の食文化を将来につなぐことも、日本だけで完結する話ではありません。海の状態や、他国の漁業との関係を含めて考える必要があります。
水族館では、サメを見て、調べる
日本では、水族館もサメとの大切な接点です。泳ぎ方や体の形を観察すると、サメという仲間の多様さに気づけます。
水族館は展示だけでなく、研究にも関わっています。アクアワールド茨城県大洗水族館の研究成果一覧には、シロワニの繁殖や幼魚の成長、トラザメの生殖に関する研究などが掲載されています。[6]
サメがどのように育ち、子どもを残すのかを知ることは、飼育や生態の理解につながります。ただし、水族館で繁殖できたことと、野生のサメが増えたことは同じではありません。
飼育下でわかったことと、海での調査結果を分けて見ると、研究の意味をより正確に理解できます。
日本のサメとの関係を、三つの角度から見る
食文化・資源管理・研究の例
| 角度 |
この記事の例 |
考えてみたいこと |
| 食文化と仕事 |
広島のワニ料理、三重のはんぺい、気仙沼の加工 |
サメは地域の歴史や仕事と、どうつながっている? |
| 保護と資源管理 |
国内行動計画、漁獲・混獲の記録、国際的な調査 |
将来も利用するために、何を調べる必要がある? |
| 観察と研究 |
水族館での展示、繁殖や成長の研究 |
飼育下でわかることと、海で調べることはどう違う? |
食文化があるから、サメを大切にしていないとは限りません。一方、伝統があることだけで、今の利用が持続可能だとも判断できません。
地域の文化を知ることと、サメの状態を確かめること。その両方を続けることが、サメと人の暮らしを考えるうえで大切です。
自由研究のヒント
身近な地域の魚料理を一つ選び、「どんな魚を使う?」「どこから運ばれる?」「いつから食べられている?」「魚の状態は誰が調べる?」の四つを調べてみましょう。
日本のサメと食文化について、よくある質問
広島のワニ料理は、は虫類のワニを使いますか?
広島県北部の三次市や庄原市などに伝わるワニ料理では、サメを使います。この地域にはサメを「ワニ」と呼ぶ言葉があります。
はんぺんには、必ずサメが入っていますか?
必ずではありません。農林水産省は伊勢はんぺい・津はんぺいの原料の例にサメを挙げていますが、ほかの白身魚も使われます。個々の商品の原材料は表示や製造元の説明で確認してください。
日本には、サメを保護・管理する計画がありますか?
水産庁は2001年に「サメ類の保護・管理のための日本の国内行動計画」を定めています。この記事では2023年12月に一部改正された資料を参照し、種類や個体群ごとの評価に基づく管理を紹介しています。
サメを無駄なく使えば、保護にも十分ですか?
無駄なく使うことと、捕りすぎを防ぐことは別の課題です。有効利用に加えて、種類や海域ごとの状態、漁獲や混獲の影響、管理の効果を確かめる必要があります。