
世界のサメと人のくらし|パラオ編
サメを守ることが、人の暮らしを支えることにつながる。その関係を考えるうえで、パラオはとても興味深い国です。
太平洋の島国パラオは、2009年に世界初の国全体を対象としたサメ保護区を宣言しました。サメを観察するダイビング観光と、海を守る仕組みには、どんなつながりがあるのでしょうか。
「世界でいちばんサメが好きな国」と順位をつけることはできません。この記事では、パラオの制度・観光・地域の伝統から、サメと人の関係を見ていきます。
この記事でわかること
- 2009年に始まったサメ保護区とは何か
- サメを見る観光が、地域の仕事とどうつながるか
- 保護のルールを作った後にも、監視や調査が必要な理由
パラオは、世界初のサメ保護区を宣言した国
パラオは2009年、国の海をサメ保護区にする方針を打ち出しました。NOAA(米国海洋大気庁)は、これを世界初の国単位のサメ保護区と紹介しています。[1]
オーストラリア海洋科学研究所(AIMS)の解説によると、この保護区では商業目的のサメ漁が禁止されています。サメを捕まえて売る利用を制限し、生きたサメを海に残すための仕組みです。[2]
ここで大切なのは、サメ保護区という名前だけで、すべての漁業が禁止されたとは言えないことです。何を守るか、どの行為を制限するかは、制度ごとに確認する必要があります。
「サメ保護区」と「国立海洋保護区」は別の制度
パラオでは2015年に、パラオ国立海洋保護区(Palau National Marine Sanctuary)の法律も成立しました。こちらはサメだけに注目する制度ではなく、海の広い範囲を守るための仕組みです。[3]
| 年 | 出来事 | 注目する点 |
|---|---|---|
| 2009年 | サメ保護区を宣言 | 商業目的のサメ漁を制限し、サメを守る |
| 2015年 | 国立海洋保護区の法律が成立 | より広く海の環境を守る制度を設ける |
この表は制度の成立の経緯を示しています。現在の境界や個別の許可条件を示すものではありません。
サメを「見る」ことが、地域の仕事につながる
サメの価値は、捕まえて売るときだけに生まれるのでしょうか。パラオのサメ観光を調べた研究は、生きたサメを見に来る人が、地域の経済を支える可能性を示しています。
2012年に発表された研究では、聞き取り調査や政府統計を使い、パラオのサメダイビング観光が生む年間収入を約1,800万米ドルと推計しました。研究では、地域への給与や政府の税収にも貢献すると報告されています。[4]
数字を読むときの注意
約1,800万米ドルは、2012年に発表された研究の推計です。現在の年間収入を示す数字としては使えません。
サメを見に行くには、案内する人や船が必要です。訪れた人は宿泊や食事もします。こうしたつながりを考えると、サメを海に残すことが、観光に関わる仕事を支える理由が見えてきます。
ただし、観光収入があることだけで保護が成功したとは判断できません。サメが暮らせる環境を保つことと、地域の人に利益が届くことの両方を考える必要があります。
海を休ませる伝統「ブル」
パラオの海洋保護は、最近の観光だけから生まれたものではありません。地域には「ブル(bul)」と呼ばれる伝統的な資源管理があります。
Pewの解説では、地域の伝統的な指導者が、特定の生き物を捕ることや、特定のサンゴ礁での漁を止める仕組みとして紹介されています。地域の食べ物を支える海を守るための知恵です。[3]
海を利用し続けるには、利用を控える判断も必要になる。この考え方は、サメを守る国の制度を理解するときにも、背景として知っておきたい点です。
パラオを「サメ観光の国」とだけ見ると、海とともに暮らしてきた人たちの歴史を見落としてしまいます。観光、漁業、地域の伝統を一緒に見ると、保護の意味がより立体的になります。
保護区を作った後にも、課題がある
広い海に保護区を設けても、そこにいつも見張りがいるわけではありません。ルールが守られているかを確かめる仕事も必要です。
AIMSが紹介した研究では、パラオの遠隔地でのサメの調査や、放置された漁具などから、違法漁業への対応と監視の重要性が指摘されています。保護区の指定だけで十分とせず、取り締まりや継続的な調査を行う必要がある、という課題です。[2]
これは過去の研究が示した課題であり、現在の違法漁業の件数やサメの数を示すものではありません。
保護を考えるときは、次の三つを分けて見るとわかりやすくなります。
- ルールを作る:何を守り、どんな利用を制限するか決める。
- ルールを守ってもらう:監視や取り締まりを行う。
- 効果を調べる:サメや海の状態を調べ、必要なら方法を見直す。
パラオから考える、サメと人の暮らし
パラオの例から学べるのは、サメの保護が、地域の暮らしや仕事とつながり得ることです。一方で、制度を作った後の監視や調査も欠かせません。
このシリーズでは、「サメが好きか嫌いか」だけで国を分けず、どんな制度があるか、海をどう利用しているか、どんな課題があるかを比べていきます。
考えてみよう
サメを見る観光が少ない地域でも、サメを守る理由はあるでしょうか。漁業や地域の暮らしとの関係から考えてみましょう。
パラオのサメ保護について、よくある質問
パラオは世界でいちばんサメが好きな国ですか?
国ごとの「サメが好き」という気持ちを同じ方法で測った資料は、この記事では扱っていません。パラオは2009年に世界初の国単位のサメ保護区を宣言した国ですが、それだけで好きな国の順位は決められません。
サメ保護区では、すべての漁業が禁止されていますか?
サメ保護区と、海の利用を広く制限する海洋保護区は区別する必要があります。パラオのサメ保護区では商業目的のサメ漁が禁止されていますが、それをすべての漁業の禁止と言い換えることはできません。
サメ観光の年間収入は、現在も約1,800万米ドルですか?
この記事の約1,800万米ドルは、2012年に発表された研究による年間収入の推計です。現在の年間収入を示す数字ではありません。
参考資料
- NOAA:A Tale of Two Sanctuaries(2020年公開、2025年改訂)。2009年のサメ保護区の位置づけ。
- AIMS:Proving elusive: a safe space for reef sharks。商業サメ漁の禁止と、監視・取り締まりの課題。
- The Pew Charitable Trusts:Palau National Marine Sanctuary(2015年公開、2017年更新)。ブルの伝統と2015年の法律成立。
- Viannaほか(2012):Socio-economic value and community benefits from shark-diving tourism in Palau。Biological Conservation, 145, 267–277。観光の経済的価値を推計した研究。DOI。
資料確認日:2026年10月8日。本文は保護の経緯と研究結果を紹介しています。