
サメがいなくなるとどうなるの?海の生態系で果たす役割を解説
もし海からサメがいなくなったら、 魚が増えて平和な海になるのでしょうか?
実際はそれほど単純ではありません。
サメは魚や海生哺乳類を食べる大型捕食者だけではなく、 中型捕食者、プランクトン食者、腐肉を利用する種類など、 さまざまな形で海の食物網に参加しています。
サメが減ると、 獲物の数だけでなく、 他の動物が「どこで餌を食べるか」、 栄養が海をどう移動するかなどにも 影響する可能性があります。
ただし、 「サメが減れば必ず海全体が崩壊する」わけでもありません。 影響はサメの種類や海域、生態系によって異なります。
サメを守る理由として 「海の生態系の頂点だから」 と説明されることがよくあります。
これは半分正しく、半分雑です。
大型のホホジロザメやイタチザメは 食物網の上位にいますが、 すべてのサメが頂点捕食者ではありません。
重要なのは、 サメというグループ全体が 海の中でいろいろな「仕事」をしていることです。
結論:サメがいなくなる影響は「魚が増える」だけではない
大型の捕食性サメが減少すると、 それまでサメに食べられたり、 サメを避けて行動していた動物の数や行動が変化する可能性があります。
その影響はさらに別の生物へ伝わり、 食物網全体へ広がることがあります。
このように、 食物網の上位にいる生物の変化が 下位の生物へ順番に伝わっていく現象を 「栄養カスケード(trophic cascade)」 と呼びます。
ただし海の食物網は非常に複雑です。 サメが1種類減れば、 必ず決まった順番で生態系が変化するわけではありません。
そもそもサメは海で何をしている?
2024年にScience誌に掲載された サメの生態学的役割についての大規模な総説では、 サメにはさまざまな役割があると整理されています。
- ほかの動物を食べる「捕食者」
- ほかの捕食者と餌を奪い合う「競争者」
- 獲物の行動や生息場所を変える存在
- 広い海域を移動して栄養を運ぶ存在
- 死んだ生物を利用するスカベンジャー
- ほかの大型生物に食べられる「餌」
つまりサメは、 単に「魚を食べて数を減らす動物」ではありません。
① 中型の捕食者が増える可能性がある
大型のサメは、 魚だけでなくエイやほかのサメなど、 中間的な捕食者を食べることがあります。
上位捕食者が大きく減ることで、 それまで抑えられていた中型捕食者が増える現象を メソプレデター・リリース と呼びます。
中型捕食者が増えれば、 その下にいる小魚や甲殻類などへの捕食圧が変化する可能性があります。
漁業は大型サメだけでなく、 エイ、小型サメ、ほかの捕食魚も同時に減らすことがあります。
そのため現実の海では、 「大型サメが減る→中型捕食者が必ず増える」 という単純な式にならない場合もあります。
② サメは「食べる」だけでなく、獲物の行動も変える
捕食者の役割は、 実際に獲物を食べることだけではありません。
獲物にとって、 「サメがいるかもしれない」という危険そのものが 行動を変える場合があります。
オーストラリアのシャーク湾では、 大型の イタチザメ が多い時期、 ジュゴンが餌の豊富な浅い場所を避け、 より安全な場所を利用する傾向が研究されています。
つまりサメは、 ジュゴンを大量に食べなくても、 「サメがいる」というだけで草食動物の採食場所を変える 可能性があります。
その結果、 海草が同じ場所だけで食べ尽くされるのを防ぐなど、 海草藻場の構造にも間接的な影響を与える可能性があります。
③ サンゴ礁への影響は「サメがいない=サンゴが死ぬ」ではない
よく、 「サメが減ると中型魚が増え、 草食魚が減り、 海藻が増えてサンゴ礁が壊れる」 と説明されます。
このような栄養カスケードが起こる可能性はあります。
しかし、 サンゴ礁におけるサメの役割を検討した研究レビューでは、 サメがサンゴ礁全体をトップダウンで支配しているという証拠は 必ずしも強くない ことも指摘されています。
多くのリーフシャークは、 生態学的には「頂点捕食者」ではなく 中間捕食者として働く場合があります。
サンゴ礁の状態は、 サメだけでなく、 漁業、水温上昇、海洋酸性化、汚染、 草食魚の量など多くの要因で決まります。
「サメさえ守ればサンゴ礁が復活する」 というほど単純ではありません。
④ サメは海の栄養を運ぶ
多くのサメは、 一つの場所だけで一生を過ごすわけではありません。
外洋と沿岸、 深い海と浅い海、 場合によっては数千km離れた海域を移動します。
移動先で餌を食べ、 排泄したり、 最終的にはほかの生物に食べられたり死骸となったりすることで、 栄養も海域間を移動します。
そのため現在の研究では、 サメは単なる捕食者だけでなく 「栄養の運搬者」 としても評価されています。
⑤ 死んだ生き物を利用する「海の掃除屋」でもある
サメは生きている獲物だけを追うわけではありません。
種類によっては、 魚や海洋哺乳類などの死骸も積極的に利用します。
死骸を食べる生物は、 有機物を食物網へ戻し、 栄養の循環に参加します。
サメは捕食者であると同時に、 海の物質循環を構成する生物でもあります。
⑥ すべてのサメが「海の頂点」ではない
サメの重要性を説明するときに、 「サメは海の頂点捕食者です」 と一括りにされることがあります。
しかしこれは正確ではありません。
ホホジロザメ のような大型捕食者もいれば、 小型魚や甲殻類を食べる小型サメもいます。
さらに ジンベエザメ や ウバザメ はプランクトンなどを濾過して食べます。
サメがいなくなる問題は、 「海の王様が消える」という一つの話ではなく、 500種以上が担っている多様な生態系機能が失われていく問題 と考えた方が正確です。
実際にサメやエイは減っているの?
これは仮想の話だけではありません。
2024年にScience誌で発表された世界規模の研究では、 サメ・エイ類1,199種を対象に 過去約50年間の状況が評価されました。
その研究では、 1970年以降、過剰漁獲などによってサメ・エイ類の個体数が全体として大きく減少し、 生態学的な機能も失われつつある ことが報告されています。
特に大型の種類は、 成長が遅く、 性成熟まで時間がかかり、 一度に増やせる子どもの数が少ない種類が多いため、 急激な漁獲から回復するのに時間がかかります。
ではサメを増やせば海は元通りになる?
ここも単純ではありません。
サメが減った海では、 漁業、温暖化、沿岸開発、汚染など、 ほかの環境変化も同時に起きています。
サメだけを元の数へ戻せば 昔の生態系がそのまま復元されるとは限りません。
だから現在の保全では、 サメを単独で守るだけでなく、 漁業・餌となる生物・生息地を含めた生態系全体を見ること が重要になっています。
サメと人間はどう共存する?
サメを守ることと、 人間が海を利用することは、 必ずしもどちらか一方を選ぶ話ではありません。
実際に世界では、 地域ごとにさまざまな方法が試されています。
- 漁獲量や捕獲方法を管理する
- 重要な繁殖・成育海域を守る
- 混獲されたサメを生きたまま放流する
- サメが多い海域を科学的に特定する
- 漁具を改良してサメとの衝突を減らす
- ダイビング観光などで生きたサメの価値を活用する
サメ図鑑では、 グリーンランドのニシオンデンザメと漁業問題 、 鳥取県のサメによる漁業被害 、 ケイマン諸島の重要なサメ・エイ生息域 なども紹介しています。
同じ「サメ保全」でも、 地域によって問題も解決方法もまったく違います。
まとめ|サメがいなくなると海はどうなる?
サメがいなくなったときの影響は、 種類や海域によって異なります。
大型の捕食性サメが減れば、 獲物や中型捕食者の数、 さらにそれらの動物の行動まで変わる可能性があります。
サメは捕食だけでなく、 栄養の移動、死骸の利用、 生物の行動変化などを通して 海の生態系に関わっています。
一方、 「サメが消えれば必ず海が崩壊する」 「サメを増やせばすべて元通りになる」 というほど単純でもありません。
海の食物網は、 多くの生物がつながった複雑なネットワークです。
だからこそ、 サメがそのネットワークの中で どんな役割を担っているのかを知り、 必要な個体群と生息地を守ることが重要なのです。