日本の海には、じつはたくさんのサメがいます。ここでは、どんなサメに出会いやすいか、いつ・どこで見やすいか、 そして安全にたのしむコツを、わかりやすくまとめました。
1.日本の海の大きな流れ(黒潮と親潮)
日本のまわりには、大きな海の流れ(海流)があります。この流れがサメの分布に大きく関わっています。
黒潮(日本海流)は、あたたかい海水で、フィリピンの東の方から日本の太平洋側へやってきます。この流れに乗って、 ホホジロザメやジンベエザメのような、 あたたかい海が好きなサメたちが日本近海へ回遊してくることがあります。
親潮(千島海流)は、つめたい海水で、北から日本の東北地方へ向かいます。このつめたい海域では、 アブラツノザメやネズミザメといった、寒さに強いサメたちが暮らしています。
サメの好む水温環境が違うため、季節や場所(海流の影響)によって会えるサメが変わるのです。
2.日本近海で出会いやすい代表的なサメたち
日本近海で見られるサメは500種類以上。その中でも、ダイビングや釣りなどでよく知られる代表種を紹介します。
- ドチザメ:おだやかな沿岸の海にすむ、小型で温厚なサメ。水族館にもよく展示されています。夜行性で、昼間は岩陰や海底でじっとしていることが多いです。
- ネコザメ:頭の形がネコ(またはサザエの殻)に似ているユニークなサメ。臼のような頑丈な歯で貝やカニをかみ砕きます。岩礁帯で見られます。
- シュモクザメ:頭の形がハンマー(撞木)のようなのが特徴。群れで泳ぐ性質があり、神子元島(静岡県)や与那国島(沖縄県)などの「ハンマーヘッドシャークの群れ」はダイバーに人気です。
- アオザメ:その名の通り、背中が美しいメタリックブルー。泳ぎがサメ界最速クラスで、主に外洋(沖のほう)で見られます。
3.季節と場所で変わるサメの動き
サメの多くは、季節に合わせて餌を追いかけたり、繁殖のために場所を移動(回遊)したりします。
- 春〜夏:黒潮が接岸する地域では、アオザメやヨシキリザメといった外洋性のサメに会えるチャンスが増えます。水温が上がるとサメの活性も高まり、浅い場所へ入ってくることもあります。
- 秋:水温が下がりはじめると、魚たちが産卵のために沿岸へ集まってきます。すると、それらを狙ってサメも岸近くまで接近することがあります。
- 冬:透明度が上がり観察しやすい日もありますが、水温低下に伴い多くのサメは深場や南の海へ移動します。一方で、寒さに強いアブラツノザメなどは冬のターゲットとして知られます。
4.見分け方のコツ(シルエットや体の特徴)
海中で生き物を見つけた時、それがサメなのか別の魚なのかを見分けるポイントです。
- 頭の形:シュモクザメはハンマー型ですぐ分かります。ネコザメは四角く角ばった頭をしています。
- 背びれの数:多くのサメは「大小2つの背びれ」を持っていますが、カグラザメやラブカといった原始的なサメは背びれが1つしかなく、体の後方にあります。
- 口の位置:ドチザメのように海底で暮らすサメは、口が体の「下側」についています。これは底にいる獲物を吸い込んで食べるのに適した形です。
5.よくある間違い(サメじゃない生きもの)
「背びれが見えた!サメだ!」と思っても、実は違う生き物かもしれません。
- イルカやクジラ(哺乳類): 一番の違いは「尾びれの向き」です。サメの尾びれは縦についていて左右に振りますが、イルカは横についていて上下に振ります。また、イルカは呼吸のために定期的に水面に顔を出します。
- エイの仲間: 体が平べったいのが特徴ですが、実はサメと同じ「軟骨魚類」です。特に「サカタザメ」や「シノノメサカタザメ」は、サメのような体つきをしていますが、エラ穴が体の下にあるためエイの仲間に分類されます。
6.安全に楽しむためのルールとマナー
サメを含む野生生物との遭遇は素晴らしい体験ですが、リスク管理も必要です。
- 近づきすぎない・触らない: サメは非常にデリケートです。こちらが不用意に近づいたり触ろうとしたりすると、防衛本能で噛み付いてくる可能性があります。常に十分な距離を保ちましょう。
- 食事の時間は避ける: 朝まずめ・夕まずめ(日の出・日の入り前後)や夜間は、サメの捕食スイッチが入っていることが多い時間帯です。また、釣り人がコマセ(撒き餌)をしている近くもサメを寄せ付けやすいため、遊泳は避けましょう。
- 落ち着いて行動: もしサメを見つけても、パニックになって水面をバシャバシャ叩くのはNGです。「弱った獲物」だと思われてしまいます。静かに、ゆっくりと距離をとってください。
まとめ
日本の海には、黒潮と親潮という2つの大きな海流の影響で、多様なサメたちが暮らしています。 季節や場所によって出会える種類が変わるのも、日本近海の面白さです。 相手は野生の捕食者であることを忘れず、正しいマナーと距離感を守って、豊かな海の世界を観察してみてください。
関連リンク
参考文献・出典
- FishBase https://www.fishbase.se/
- FAO Fisheries & Aquaculture http://www.fao.org/fishery/
- Smithsonian Ocean Portal https://ocean.si.edu/
- Shark Trust https://www.sharktrust.org/
- 『Sharks of the World』(Princeton University Press)